研究実績の概要 |
最終年度は、「研究の目的」「研究実施計画」に照らして、以下の2つを遂行した。1)標準化された「語彙能力問題」と(財)日本学校保健会(2005)の「選択式問題」とを比較分析した結果、保健の問題には「問題の難易度」「問題文の難解度」の存在が明らかになった。作問経験の蓄積が解決の一助と成り得る。2)授業を構想する場合、子どもが新しい教育内容についてどの程度の学力や生活経験を保持しているかを事前に把握することは重要である。中でも「素朴概念」の存在は、子どもの科学的な認識形成の中核的概念(R.オズボーン・P.フライバーグ,1985;細谷,1996;森・秋田,2002)と言われ、診断的評価の対象となる。得られた診断的評価の情報をもとに、発問や探究課題が工夫されたり「つまずき」が組み込まれたりして授業は構想される。ところがこの「素朴概念」は、保健学習ではほとんど検討されていない。本研究では保健学習の一つの事例として「心臓の位置」を提起した。 (財)日本学校保健会(2005)の全国調査では「心臓の位置」は小5~高3までの8割以上が正しく回答した。この結果は「心臓は左胸にある」という「素朴概念」に最も近い選択肢を選んだだけと解釈することもできる。この点について選択肢の布置を変えた作問を行った。全国17校の高校2年生男女701名の回答を分析した結果、新たに作成した「心臓の位置」問題では正答率が36.9%で、全国調査版問題の94.1%よりも有意に少なかった。正答よりも左に選択肢があるとそれが選択されやすいことから、「心臓の位置」は保健学習における「素朴概念」の一つの事例といえる。従来、保健科教育学では、授業づくりにおいて、学習者(子どもはどう学ぶか)のレベルの研究の遅れが指摘(森,1987)されており、今回の研究は、この課題レベルを意識した、保健科教育学の分野で初の全国的な実証調査となった。
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