平成26年度は,児童生徒に対するストレスコーピングスキル獲得を考える際に,獲得の程度の個人差を生じさせる「報酬への注意の偏り」を変容する手続きを取り入れた集団社会的スキル訓練(SST)の検討を目的として,これまでに予備的に得られたデータ分析結果に基づき,多くのクラス集団を対象として新たにデータを追加した。公立小中学校に在籍する小学生342名,中学生565名から得られたデータに基づいて分析を行った結果,中学生において,報酬への注意の偏りが見られない生徒は適切に社会的スキルが獲得,維持されたことが確認されたのに対し,偏りが見られる生徒は,獲得したスキルが維持されにくい傾向にあることが明らかにされた。小学生においては,ベースラインの注意の偏りの程度にかかわらず,獲得された社会的スキルが維持されることが示された。そして,小中学生ともに,ベースラインの注意の偏りの程度にかかわらず,注意変容の手続きを取り入れた群は,標準的な手続きのみを行った群と比較して,ターゲットスキル以外の向社会的スキルが向上し,社会的スキルの般化が起きやすい傾向にあることが示された。 また,クラス集団を対象とした場合,コーピングスキル獲得に際して,個人差を生じさせる別の要因として,訓練されるターゲットスキルが同一になってしまうという問題点を解決するために,行動活性化療法(BA)の手続きを援用し,個人差に応じたターゲットスキルを設定した場合の不安反応や抑うつ反応の低減に及ぼす効果を検討した。公立小学校5年生109名の児童を対象として,ストレスマネジメント介入を実施した結果,標準的な手続きを用いた群,認知的体制化を加えた群と比較して,BAの手続きを用いた群は,効果が高い傾向にあることが示された。別の学年等を対象としたデータセットに関しても,引き続きデータ収集,分析等を行っている。
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