GADD34(growth arrest and DNA damage-inducible protein)は栄養飢餓ストレス、小胞体(ER)ストレスなど様々な細胞障害性ストレスにより発現が増加し、異常タンパク質の蓄積でおきる小胞体ストレス応答による一時的なタンパク合成停止からの回復に働くことが知られている。また、前年度までの研究で、GADD34は炎症誘導刺激によりマクロファージでの発現が上昇しNF-κBシグナル経路にも関与していることが示唆されている。本年度は、タバコ煙の主成分であり慢性閉塞性肺疾患(COPD)の原因物質と考えられているアクロレイン刺激によるERストレス応答と自然免疫系を中心とした全身の防御機構におけるGADD34の機能解析を行った。GADD34遺伝子欠損(KO)マウスおよび正常(WT)マウスを用いてアクロレインを経鼻投与し、肺の組織解析を行った結果、GADD34KOマウスではWTに比べ組織破壊、マクロファージの浸潤が抑制されることが明らかとなった。また、アクロレイン投与により肺組織においてGADD34の発現の増加が確認された。アクロレイン投与による活性酸素(ROS)の上昇、ERストレスによるp-eIF2αの上昇、アポトーシスを誘導するcaspase3の活性化、さらにNF-κBシグナル経路の活性化による炎症性サイトカイン産生がGADD34KOマウスではWTマウスに比べ抑制されることが明らかとなった。さらに、in vitroにおいてGADD34を発現抑制させた肺癌細胞株LLCにおけるアクロレイン刺激による解析から、GADD34の発現抑制により、eIF2αの持続的なリン酸化が起きることでタンパク合成が抑制され、ROSによる細胞死が抑えられるというメカニズムが明らかとなった。
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