研究課題
加齢による骨格筋減少(サルコペニア)は、高齢者の虚弱性の主要因であるが、予防・治療対策は限られている。本研究では、老化促進モデルマウスとその対照となる正常マウスを30週齢まで飼育し、魚油に豊富に含まれるω3系脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)が、骨格筋量や筋力、蛋白合成と分解に関与する細胞内シグナルの加齢性変化におよぼす影響を検討した。EPAには、慢性炎症抑制作用やインスリン抵抗性改善作用があるが、近年、骨格筋で蛋白同化作用があり、高齢者の筋力維持や悪液質による筋減少の抑制に有効とする報告がある。しかしながら、そのメカニズムは十分解明されていない。平成24年度には、正常マウスにおいては骨格筋量がEPA投与によりコーン油投与と比較し増加したが老化促進マウスでは影響しなかったこと、一方で、老化促進マウスにおいて、EPA投与により非投与に比べ筋力が増加したことを示した。平成25年のおいては、細胞内シグナル解析をした。老化促進モデルマウスでは、対照マウスに比較し、蛋白合成系シグナル分子のうち4EBP1とp70S6Kにおいては蛋白発現または活性化の低下がみられたが、より上流に位置するシグナル分子であるAKTや、エネルギー制御にもかかわるAMPKのリン酸化の亢進が観察され、外的刺激非依存的に骨格筋蛋白合成シグナルが異常となっている可能性が示された。そこで、さらに筋タンパク合成制御のメカニズムを詳細に検討するため、下肢における代償性骨格筋肥大の系を用いることとした。本年度は正常マウスにおいて、腓腹筋切除時のヒラメ筋と足底筋の代償性肥大を検討し、対照肢との比較で手術肢で有意な肥大があることと、ひらめ筋の肥大が、EPA投与投与群でコーン油投与群より有意に増加することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
抗炎症作用を有するエイコサペンタエン酸(EPA)が、加齢(老化)時の骨格筋の維持に有効である可能性を示した。また、老化促進マウスにおいて、骨格筋蛋白合成系とエネルギー制御系において異常があることが明らかになった。EPA投与は、老化促進マウスにおけるこのような異常を改善しうるか、骨格筋の代償性肥大モデルなどを用いることで、より詳細に検討していくが、その予備的な実験は順調に行えた。
エイコサペンタエン酸(EPA)の長期的な投与による骨格筋量維持への有効性は老化促進マウスにおいては示されなかった。しかしながら、EPAは筋力維持に対する有効性や(炎症を惹起した可能性があるコーン油と比較して)老化促進マウスの生命予後を改善した。本年度は、EPAの有効性をさらに検証する。老化促進マウスで骨格筋代償性肥大が起こるかどうかを明らかにするとともに、EPAの効果を検討する。また、トレッドミル運動による有酸素トレーニングの影響についても検討する。
動物購入の時期の遅れにともない、翌年への持ち越しとなった。次年度の研究費として、本年度の持ち越し金(304479円)と合わせて次のように計画する。設備備品費、0円、消耗品費、1304479円(生化学実験試薬、500000円;生化学実験器具、204479円;血液検査代、200000円;実験動物、400000円)、論文別刷り等、50000円、旅費、100000円、人件費・謝金50000円。
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Nutr Res
巻: 未定 ページ: 未定
Nat Commun
Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol
巻: 304 ページ: R374-R382
doi: 10.1152/ajpregu.00489.2012.