研究課題
これまでの研究により蓄積された健康診断データをもとに、メタボリックシンドローム発症高リスク群のライフスタイルを明らかにしてきた。本研究では睡眠や食事、喫煙習慣などのライフスタイルの中で、特に喫煙習慣に注目して解析を行っている。昨年度までに、炎症性サイトカインおよび動脈硬化症の指標である頸動脈の内膜中膜複合体厚 (IMT) の経年変化を解析することにより、喫煙者は非喫煙者と比較して有意に血中IL-6および高感度CRP値が高く、また過去喫煙者も非喫煙者と比較してこれらが高い傾向にあり、炎症が遷延している可能性が示唆された。2年間の観察期間中のIMTの増加には、収縮期血圧、中性脂肪、HbA1c、LDL-コレステロールおよび喫煙が関与していたが、多変量解析によりLDL-Cと喫煙の強い関与が明らかとなった。今年度は、特に女性における喫煙の影響について解析を行った。女性喫煙者においても非喫煙者と比較して有意に血中IL-6および高感度CRP値が高く、観察期間中のIMTの経年変化は有意に女性喫煙者において大きかった。また、男女ともに喫煙者は非喫煙者と比較して中性脂肪が高く、HDL-コレステロールが低かったが、興味深いことに女性喫煙者は非喫煙者と比較して有意に内臓脂肪面積が大きくなっていた。男性喫煙者においても非喫煙者と比較して内臓脂肪面積が大きくなる傾向を認めたが、女性においてその差が顕著であった。一般的に女性においては内臓脂肪に比べ皮下脂肪が多いことが知られているが、女性喫煙者においては男性喫煙者には見られない内臓脂肪面積の増大を伴うことを初めて明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
メタボリックシンドローム発症高リスク群のライフスタイルとして、まず喫煙習慣に焦点をあて詳細に検討し、さらには男女別に喫煙の影響について解析を行った。炎症性サイトカインの解析から、喫煙習慣が慢性炎症に関わっていること、動脈硬化の進展に強く関与していることを明らかにした。また、メタボリックシンドローム発症にかかわる喫煙の影響における性差の存在を初めて明らかにした。本研究成果は、生活習慣病予防へとつながるライフスタイル改善に向けての指導方法において、男女別に予防法・生活指導法を確立する必要がることを初めて明確にし、男女それぞれにおける個別の禁煙指導の重要性を示した。睡眠や食事習慣などの喫煙以外のライフスタイルの、メタボリックシンドローム発症リスク因子としての意義、さらには喫煙と老化との関連についての検討は、次年度以降に実施予定である。
これまでの研究において、我々は男性と女性において動脈硬化発症機序に違いがあることを報告している。昨年度は、主に男性の喫煙習慣の生活習慣病発症リスク因子への関与について解析を行い、今年度は女性喫煙者につき解析をすすめることで、喫煙の影響について性差があることを明らかにした。平成25年度に「健康日本21」が大幅改訂され、この中で禁煙がかなり重視されるとともに、近年若年女性の喫煙率が低下していないことも含め、今後の禁煙指導に対して重要な情報を提供すると思われる。さまざまな生活習慣病の病態および老化に、慢性炎症が関与していることが近年示唆されている。喫煙習慣以外の、食事、睡眠やストレスなどのライフスタイルの変化が、予防医学的観点からメタボリックシンドローム発症リスク因子としてどのような意義を持つのか、さらには喫煙習慣と老化・慢性炎症との関連を明らかにしていく予定である。
本研究のほとんどの経費は、検体のサイトカインなどの測定に使用されているが、今年度の研究対象となる検体数が当初の予定より少なかったため、次年度に繰り越すこととした。次年度の研究計画に基づいた、検体のサイトカイン等の測定やデータ解析、研究成果発表のための学会出張旅費に使用予定である。
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