研究課題/領域番号 |
24500865
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研究機関 | 大妻女子大学 |
研究代表者 |
高波 嘉一 大妻女子大学, 家政学部, 教授 (40206777)
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研究分担者 |
川合 ゆかり (財)ルイ・パストゥール医学研究センター, 基礎研究部, 研究員 (80530253)
青井 渉 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (60405272)
村瀬 訓生 東京医科大学, 医学部, 講師 (10317894)
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キーワード | 介護予防 / サルコペニア / 廃用性筋萎縮 / 酸化ストレス / 慢性炎症 / アスタキサンチン |
研究概要 |
昨年度開発した新規の介護予防運動プログラムの妥当性を検証するため、少数例の試験的介入からスタートしたが、運動プログラムだけでは虚弱高齢者の骨格筋量や骨格筋機能への効果が認められなかった。被験者への聞き取りにより、たんぱく質の摂取量が不十分であることが推察され、これが運動効果に影響している可能性が考えられた。このため今年度は、まず運動プログラム+たんぱく質摂取の効果を確認することとした。 中高齢女性9名(55~82歳:73.1±8.3歳)を対象とし、これを2群に分け、片方を運動+卵白たんぱく質飲料(たんぱく質6g/日)摂取併用群(EP群:4名)、もう一方を運動単独群(E群:5名)とした。対象者に週1回、介護予防プログラム(2時間/回:有酸素運動+マシン利用の筋力トレーニング)への参加を3か月間継続していただいた。介護予防プログラム実施期間前後の2回、体力測定、体組成測定、唾液採取を行った。唾液サンプルは凍結保存し、後日唾液中コルチゾール濃度の測定に供した。 3ヶ月間の運動プログラムにより、体重や体脂肪率、骨格筋量などの体組成に関しては、両群とも明らかな変化は認められなかった。これは、骨格筋量などへの影響を見るには介入期間が短すぎたためと推察された。骨格筋機能を見るための体力評価においては、E群では変化がなく、EP群で握力、5m最大歩行テスト、TUGテストに改善が認められた。すなわち運動プログラムにたんぱく質摂取を取り入れることで、3ヶ月という短期間であっても筋力、歩行能力、複合的動作能力が向上することが示唆された。ストレスマーカーである唾液中コルチゾール濃度は、EP群で改善が認められ、たんぱく質摂取量を増やすことで、筋萎縮や機能低下に関与するストレスの低減をもたらす可能性が示唆された。これらの結果より、今後の研究では「運動+たんぱく質摂取」をベースに、抗酸化栄養素の追加効果を検討することが妥当と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
加齢性筋減弱の評価法について、体格指標、体力指標、酸化ストレス及びストレスマーカー、炎症マーカーの面から検討を進め、その内容を決定することができた。しかし、予備的な介入の結果、たんぱく質摂取不足による影響により、今回取り上げる抗酸化栄養素の効果を解明するのは困難であることが推察されたので、当初予定していなかった運動プログラム+たんぱく質摂取併用の効果をまず検討することとなった。そのため、今年度スタートさせる予定であった抗酸化栄養素を用いた介入がスタートできず、次年度に持ち越すこととなったので、やや研究の進行がやや遅れている。 ただ、高齢者においてたんぱく質摂取不足の状態では、骨格筋に対する運動の効果は発現しにくくなり、そのようなコンディションで抗酸化栄養素を追加しても効果が認められない可能性が高いことがわかったので、より正確に抗酸化栄養素の効果を検討するための追加条件を明らかにすることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの高齢者を対象とした予備検討より、プログラム途中脱落者が少なくないことや、参加者の個人差が大きいことなどが問題点として浮上し、通常の介護予防クラスの参加者を対象に本研究における介入研究を行うことは困難と判断された。このため、比較的均一な被験者確保のため、一定基準を満たす参加者を募る特別クラスを設置し、介入研究に協力していただくことを考えた。この特別クラスを年2コース程度開講することで、被験者を目標数確保する予定であったが、研究協力者が施設長として所属する介護施設が、特別コースを継続的に開講することに難色を示してきたので、今後の介入実施が困難になることが予想される。この点に関しては、現在、他の複数施設に協力を依頼しており、また自治体等へのアプローチも検討中である。このような状況で、本研究の中心をなす介入研究のスタートがさらに遅れ、一定数の被験者を確保するのに時間を要する可能性が高く、研究期間延長も考慮する必要があると考えている。 介入方法に関しては、確定した運動プログラム+たんぱく質摂取をベースにし、加えてアスタキサンチン併用の有無で効果に差が認められるかどうかを検討するプロトコールに変更する。 またこれまでの検討により、デイサービスのような介護予防の現場で一般的な採血作業を行うことは困難と判断し、今後血液検査の主要項目だけでも実施するため、指先自己採血による微量血液検体で検査可能な装置を追加整備する予定である。 動物実験によるアスタキサンチンの筋萎縮予防メカニズムの解明に関しては、DNAチップを用いてmRNA発現の網羅的解析を実施する予定であり、メカニズムに関しては一定の知見をまとめられるようにしたい。
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