研究課題/領域番号 |
24500877
|
研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
鈴木 敬一郎 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (70221322)
|
研究分担者 |
藤原 範子 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (10368532)
|
キーワード | 酸化ストレス / SOD1 / 行動学 / モノアミン |
研究概要 |
本研究の目的は、老化や生活習慣病に関与する酸化ストレスが脳機能にどのような影響を及ぼすのかを解明することである。我々の生体には酸化ストレスから身を守るために、多くの抗酸化酵素や抗酸化物質が存在する。中でもCu/Zn-superoxide dismutase(Cu/Zn-SOD以下SOD1)は生体にとって有害なスーパーオキシドを代謝する酵素で、酸化ストレスから生体を守る重要な役割を果たしている。このSOD1をノックアウト(KO)したマウスは、骨格筋の萎縮や難聴、加齢黄斑変性症などの老化現象に似た症状を呈する。脳内もSOD1が欠損することで、スーパーオキシドや種々の活性酸素が蓄積し、酸化ストレスの強い環境に曝されていると考えられる。加齢に伴う種々の神経変性疾患や認知症には酸化ストレスの関与が疑われているが、その詳細はまだ明らかではない。平成25年度は、前年度に引き続いて酸化ストレスの亢進が、学習能力や情動行動にどのような影響を与えているのかを明らかにする目的で、行動学試験を行った。若齢(12週齢)のSOD1KOマウスと野生型マウスとを比較したところ、自発的活動量、驚愕反射、受動的回避行動試験では有意な差は見出されなかった。一方で、老化した個体を用いた行動学実験では、SOD1KOマウスは野生型マウスと比較して自発的活動量が有意に低く、学習能力も低下傾向にあった。また、行動学実験に用いたマウスより採取した脳を用いて、脳各部位におけるモノアミン量の測定と脳内モノアミン代謝酵素およびトランスポーターの発現量などの解析を行った。その結果、SOD1KOマウスでは、脳内モノアミンであるドーパミンおよびセロトニンの代謝回転が亢進していることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
老化したSOD1KOマウスにおいて活動量や学習能力の低下やモノアミン代謝の変化を見出すことができた。この結果は、老化による脳機能の低下に酸化ストレスが関与している可能性を示唆するものである。また、SOD1KOマウスにおいてモノアミン代謝の変化をもたらす原因分子の解明を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
SOD1KOマウスとWT-マウス(12週齢および6ヶ月から1年齢、一群を5匹とする)を用いて、これまで行っていなかった驚愕反射、モーリスの水迷路、社交性行動試験、性行動試験などの行動学実験を行なう。動物の行動は性ホルモンの影響を受けるので、実験には雄マウスだけを用いる。 1. 行動学実験終了後、SOD1KOマウスおよび野性型マウスの脳を部位別に分け、微量天秤で重量を測り、すぐに液体窒素で凍結し、マイナス80℃で保存する。2. 各脳部位を酸性バッファーで除タンパク処理し、上清中のモノアミン(ドーパミン系およびセロトニン系の神経伝達物質とその代謝物)の定量を行う(HPLC法による)。さらに脳内の鉄や銅の含有量を測定する(原子吸光分析法による)。3. モノアミン合成酵素、モノアミンレセプター、モノアミントランスポーターの発現量は、各脳部位からmRNAを取り出し、リアルタイムPCR法で定量する。脳の組織切片を作製し、mRNAの発現量に変化のあった分子の免疫組織染色を行なう。4. 神経細胞(PC12細胞やSHSY-5Y細胞など)に酸化ストレスやモノアミン(ドーパミンやセロトニン)を与え、モノアミン合成、分解、輸送、受容に関与する遺伝子が変化するかどうかをリアルタイムPCRやウエスタンブロッティングで検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額の研究費が生じた理由は、計画どおりの予算より少ない額で研究が達成できたためである。 細胞培養用の血清や培地、ディッシュなどのプラスチック製品、ウエスタンブロットやELISAに用いる抗体やイムノプレート、リアルタイムPCRの遺伝子実験試薬などは本研究の遂行に必須である。これらは消耗品の生化学実験試薬として購入する。また学会発表や論文作成のための費用に使用する。
|