本研究の目的は、老化や生活習慣病に関与する酸化ストレスが脳機能にどのような影響を及ぼすのかを解明することである。我々の生体には酸化ストレスから身を守るために、多くの抗酸化酵素や抗酸化物質が存在する。中でもCu/Zn-superoxide dismutase(Cu/Zn-SOD以下SOD1)は生体にとって有害なスーパーオキシドを代謝する酵素で、酸化ストレスから生体を守る重要な役割を果たしている。このSOD1をノックアウト(KO)したマウスは、骨格筋の萎縮や難聴、加齢黄斑変性症などの老化現象に似た症状を呈する。脳内もSOD1が欠損することで、スーパーオキシドや種々の活性酸素が蓄積し、酸化ストレスの強い環境に曝されていると考えられる。加齢に伴う種々の神経変性疾患や認知症には酸化ストレスの関与が疑われているが、その詳細はまだ明らかではない。 平成24年度および平成25年度は、酸化ストレスの亢進が、学習能力や情動行動にどのような影響を与えているのかを明らかにする目的で、まず若年齢の生体マウスを用いて行動学試験を行った。その結果、若齢(12週齢)のSOD1KOマウスでは野生型マウスに比べて、能動的回避試験の成績が悪く、学習能力や認知力が低下していることが示唆された。さらに、行動学実験に用いたマウスより採取した脳を用いて、脳各部位におけるモノアミン量の測定を行ったところ、SOD1KOマウスでは、脳内モノアミンであるドパミンおよびセロトニンの代謝回転が亢進していることが分かった。 そこで平成26年度は、SOD1KOマウスの脳内モノアミン代謝が変化した原因を明らかにすることを目的として、SOD1KOマウスと野生型マウスから脳を採取し、脳の各部位(大脳、中脳および小脳)において発現量が異なる分子の探索を行った。その結果、SOD1KOマウスの大脳において、脳内モノアミンの代謝に関与する分子Xの発現が増加していること、分子Xの発現が大脳の中でも特定の部位に限局していることを見出した。
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