研究課題
骨格筋損傷後、損傷局所へ向かって単球/マクロファージの移動(走化)が開始されるが、そのメカニズムは十分明らかではない。我々はそのメカニズムを解明することで、メタボリックシンドロームによって引き起こされる慢性炎症性疾患が、骨格修復を遅延させ、その結果「運動不足」に陥ってしまうのではないか、との仮説が提示できると考え検討を行っている。本年度は、損傷骨格筋細胞へのマクロファージ走化性メカニズムを解明するため、フォスファチジルイノシトール3リン酸キナーゼ(PI3K)の関与について検討した。骨格筋細胞C2C12は、生・死細胞を調整し、骨格筋損傷モデルとした。マクロファージ細胞J774は、デキサメタゾン(DEX)、およびリポポリサッカライド(LPS)で処理し、PI3K阻害剤にはLy294002(Ly)を使用した。細胞走化性機能は、運動性の指標としてF-actin、方向性の指標としてCCR2発現を評価し、走化性は骨格筋損傷モデルへの移動軌跡から評価した。その結果、F-actin発現にDEXおよびDEX+Ly処理の影響は観察されなかった。一方、ケモカインレセプターであるCCR2発現は、DEX処理で有意に増強し、Ly前処理で抑制された。また、DEX処理でマクロファージの高い走化性が観察され、Ly前処理で抑制された。一方、LPS処理で低下した走化性は、Ly処理することで回復し、その走化性は、運動性の変化ではなく、方向性の回復によるものであった。興味深いことに、LPSによるF-actin発現は亢進し、Ly処理によって有意に抑制されていた。すなわち、F-actin発現は、方向性にも関係していることが示された。いずれにしても、マクロファージ走化性へのPI3Kの関与が示された。本年度の成果は、慢性炎症性疾患が、骨格修復を遅延させてしまうのではないかとの仮説を、一部支持する結果なのかもしれないと考えている。
3: やや遅れている
動物実験レベルでの検討を予定しており、今回、これまでの培養マクロファージ細胞からマウス単離脾臓マクロファージへの実験材料の移行を試みたが、現在までその試みは十分満足のいくものとなっていない状況である。すなわち、培養細胞とマウスから単離した初代培養細胞とでは、その細胞サイズに大きな隔たりがあり、細胞走化性測定装置を用いた初代培養細胞走化実験が、現状の装置では困難を伴うことが明らかとなった。現在、装置の改良、もしくは実験方法の一部変更が必要かどうか検討中のため、若干の遅れが生じている。
研究の遅れを解消するために、細胞走化性測定装置の改良については、これまで使用してきた6マイクロメートル幅のチップをさらに狭くしたチップの使用(4マイクロメートル幅)を検討している。それ以下のサイズについては今のところ改良が困難な状況である。そのための2段階目の対策として、申請時に提案した、実験プロトコルの見直し、および研究手法の変更を検討している。すなわち、走化性の評価については、培養細胞を用いたin vitroモデルに限定し、動物実験は組織学的手法で走化性(浸潤)を評価する2本立てで研究を継続する方策である。
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