研究課題/領域番号 |
24500887
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
音山 若穂 群馬大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (40331300)
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研究分担者 |
井上 孝之 岩手県立大学, 社会福祉学部, 准教授 (40381313)
古屋 健 立正大学, 公私立大学の部局等, 教授 (20173552)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 保育・子育て / 対話型アプローチ |
研究概要 |
本研究の目的は、「対話」を核とした保育研修プログラムの開発および評価法の開発を通して、個々の保育者の反省的実践の資質の醸成に寄与する方策についての実践的な知見を得ることにある。本年度は以下を目標に研究を実施した。 ①研修の実施形態とその内容把握:主任保育士対象の研修会において、今後行ってみたい内容、対話型研修の可能性などについて自由記述を求めた。その結果、園内研修でも対話型アプローチを取り入れたいという希望が多い一方で、研修時間の確保が難しく余裕がない実態が示され、園内で容易に行える手法と評価法の開発が期待されていることが明らかとなった。 ②対話を中心とした研修プログラムの開発:現職者の園外研修会でカフェ型の対話を行ない、前後で保育者省察尺度と集団雰囲気を測定した。その結果、カフェ実施後には省察、雰囲気ともにポジティブな変化が認められた。同様の効果は養成課程における学生対象のカフェでも認められており、カフェ型研修の一定の効果が示されたと言えよう。カフェ型研修をどのように集団での学び合いに結び付けるかについては、古屋ら(2010)による心理教育的集団リーダーシップ訓練の試みをベースとして、そのなかにカフェを始めとする対話アプローチを取り入れ、プロジェクトの立案と遂行を通して集団での課題解決を行う、一連の学習プログラムを検討しているところである。 ③対話型研修の効果評価法の検討:保育現場や保育者養成における対話を用いた研修・学習場面で使用できる尺度の開発と妥当性検討を行った。まず養成課程学生および現職保育者を対象として、杉村(2006)らの保育者省察尺度についてα係数および学生と現職間の差を求め、学生の省察には実習状況が強く反映していることが示された。次に幼稚園教諭を対象として日々の保育における気づきのポイント、振り返りの実際についての自由記述アンケートの分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①研修の実施形態とその内容把握:今回は主任保育士を対象に調査を行った。今回得られた結果はおおむね研修ニーズについての他の調査結果と一致するものであり、目立った傾向は認められていないことから、さらに広範な調査の必要性は限定的と思われる。保育現場において、対話型もしくは参加型研修には一定のニーズがあるとともに、簡便かつ効果的な研修プログラムの開発に期待が寄せられているという基本的な部分については、現状ではほぼ確認されたものと言えるだろう。 ②対話を中心とした研修プログラムの開発:保育研修においては、養成段階から卒後の職場内外の研修までを見通したプログラムが期待されることから、まず学生対象に試行を行なった結果、半期授業の枠を使って実践できることが示された。しかし保育現場においては、半期授業に相当する研修時間を確保することは困難であり、より短いプログラムに洗練する必要がある。もとより対話や省察型学習には十分な時間の確保が必要であると言われているが、短時間で効果的な対話を進めるための手法の開発が、今後の課題として浮き彫りになったと言える。 ③対話型研修の効果評価法の検討:これまで杉村(2006)らの保育者省察尺度および木本(2011)の集団雰囲気尺度を用いて、学生や現職者を対象として対話における前後比較を行ってきたが、うち集団雰囲気については一貫した有意差が認められており、カフェでのポジティブな雰囲気についてはおおむね確認されたと言える。一方、保育者省察尺度については、部分的に結果が異なっており、検討の余地が残されている。これはもとより対話を前提とした尺度ではなく、現職対象の尺度であることなどに起因すると思われるが、対話型アプローチによる学びの内容とその深さを適切に測定できる尺度開発については今後の課題であり、この点についてはさらに研究を加速させる必要があるであろう。
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今後の研究の推進方策 |
①対話型研修プログラムの開発と実践:教職や保育士養成課程の学生を対象とした試行を引き続き行い、半期授業の枠を使ったプログラムについて最適化を行う。古屋らの心理教育的集団リーダーシップ訓練では自己理解やコミュニケーションスキルなど基礎的スキルが重視されているが、現職者ではそうした基礎力が一定程度あることを前提として、対話型アプローチに重心を移したプログラム化を試みる。続いて、保育施設を対象としてプログラムを試行し、実践上の課題点を析出するとともに、評価法の検討、特に保育者省察尺度では捉えきれない気づきの有無と内容、および集団的な課題解決の過程をどのように捉えうるかについて観察研究を進める。 ②対話型研修の効果評価法の検討:杉村らの保育者省察尺度をベースとして引き続きデータを収集し、項目の削除や追加をしながら、対話型アプローチに最適化した尺度を作成する。また、研修の成否は、対話型アプローチを取り入れたかどうかだけでなく、研修の内容を始め職場風土や職場の抱える課題にも影響を受けると考えられるが、ワールドカフェなどの対話法そのものの効果として、現状では集団雰囲気尺度でしか測定しておらず、十分把握しているとは言えない。そこでより対話型アプローチの効果について純粋に評価できる指標の検討のため、対象を広げ、保育研修や養成授業以外も含めた対話の機会、例えば地域単位のセミナーや勉強会などもとらえて調査を行うことを考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費は図書費用として計上したが、当該年度はテーマが絞り切れず選定が困難であったことと一部欠品があったため次年度への持ち越しとした。人件費およびその他についてはデータ分析作業の開始が年度末にずれ込んだため、残りの作業は次年度で行うこととしたためである。
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