本年度は二つの研究を行い成果を得た。 一つは、大学生に対する「動画」を活用した包丁技能の教育・評価方法の開発を計画し実施したことである。必修科目「調理実習」(2013年度)の受講者女子大生1年生全71名を調査対象とし、受講前後でキャベツの繊切りテストを行い、切られたキャベツと学生の動作を撮影したデータからキャベツの仕上がり状態、利き手と添え手の動作評価項目、繊切り動作の総合評価基準を作成した。 その結果、事前に利き手と添え手を連動させる動きがスムーズではない学生が受講後には両手の使い方に関する技能と総合評価が有意に向上した。学習者が自身の動作(動画)を見ることは、現状を客観的に正しくとらえて評価し、改善点を意識する学びにつながった。作成した基準は到達目標点を示すルーブリックとしても活用できると考えられる。 二つ目に、小学生に通常の家庭科の授業内に包丁を多く用いる授業実践を設定しこのような技能習得に焦点化した学習を通して児童が包丁技能を習得するのか、この包丁技能を習得するという学習が児童にとってどのような教育的効果があるのかを明らかにしたことである。小学校5年生39名を対象として2012年に実施した一連の授業、および前後の質問紙調査、技能調査(ジャガイモの皮むき調査)をへてデータの分析を行った。その結果、児童の包丁技能が上達したこと、意欲がより高まったことを明らかにした。さらに学習前に自分の技能の実態を過大評価していた児童が自分の技能を正しく評価できるようになったことを教育的効果として示した。この効果は特に切る技能よりもむく技能において顕著である。調理技能の習得は生活の自立のために有用な身体的技能の上達について論じられることが多いが,教育的観点から考えると,単なる身体的技能の上達だけではなく,自分の技能実態がどの程度であるのかを把握できるようになることにも意味がある。
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