本研究は日本のCSRの中で取り組みが不十分な人権・労働条件の側面を対象とし、ステイクホルダーとして多面性をもつ「生活者」概念を使用し、企業と「生活者」の在り方をワーク・ライフ・バランスから解明しようと考えた。現在の日本において、雇用者のワーク・ライフ・バランスを実現することは、女性の活躍を進めようとする政府の動向とも合致するものである。本研究では、ジェンダー平等を実現するためのワーク・ライフ・バランスを検討するために、国内で最も共働き率の高い福井県を調査対象地域として選定し、福井県の共働き夫妻への生活時間調査と家事労働の社会化に関する調査を実施した。 生活時間調査では、福井県の特徴である3世代同居世帯の妻が、夫婦の家事労働時間のジェンダー格差が大きく、ワーク・ライフ・バランスが果たされていない。一般的には、3世代同居世帯の妻は、同居親の助けにより、家事労働時間は少ないと考えられてきたが、本調査では逆の結果となった。家事労働の社会化について、家電の利用と家事援助サービスの利用から検討した。家電利用率については、福井県は全国平均よりもかなり高いことがわかっているが、本調査結果は全国的な調査以上の家電利用率を示した。しかし、家電利用の進展具合に関しても、3世代同居世帯の反応は鈍い。家事援助サービスは、民間のサービス利用ではなく、多くが近親者に金銭を支払って援助を受けていた。単なる助け合いでなく、金銭を媒介とした助け合いが見られることは大変興味深い結果となった。 本調査では、調査対象者の生活が企業のどのような施策と結び付けられているのかを探りたいと考えたが、勤め先情報に関しては十分なデータが得られなかった。しかしながら、当該の地域社会における生活支援の方法やワーク・ライフ・バランス推進策については、いくつかの提案が可能となったと考える。
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