本年度の研究実績は以下の通りである. 1.ポリビニルアルコール(PVA)ゲルに対して,酢酸銅水溶液中における膨潤挙動を検討した.銅塩溶液には,水酸化ナトリウム,または,塩化ナトリウムを添加した場合も調べた.その結果,酢酸銅(Ⅱ)水溶液中におけるPVAゲルの収縮と膨潤は,PVAを配位子とするPVA-Cu錯体の生成と解離によると推察された. 2.PVA膜中水の凍結融解過程のDSCによる観察を行い,ゲルの自由水分率について検討を行った.本年度は,特に鹸化度の異なるPVAゲルを用いて,高分子基質の疎水性-親水性バランスが膜中水に与える影響を調べた. 3.綿布を銅塩と直接染料コンゴーレッド(CR)で媒染染色した布について,エタンチオール消臭初期速度がラングミュア-ヒンシェルウッド(L-H)機構に従うことが,研究代表者ら研究ですでに明らかになっているが,今回は,初期段階ではなく,エタンチオールとその酸化生成物であるジエチルジスルフィドの両方を含む混合気体中で消臭過程を調べた.その結果,媒染染色布によるエタンチオールおよび混合気体の消臭はL-H型であるが,銅塩処理のみの布による消臭は酸化段階律速のL-H型ではないことが示唆された. 研究期間全体の結果より,溶質と相互作用がある含水高分子ゲル系における,膨潤収縮に対応した物質収着特性の変化や吸水メカニズムが明らかになった.消臭特性に関する知見と組み合わせることにより,消臭機能を付与しつつも吸水性能を維持できる新たな高機能オムツ素材の可能性が示されたと考える.
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