研究課題/領域番号 |
24500924
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
三野 たまき 信州大学, 教育学部, 教授 (00192360)
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キーワード | 被服圧測定装置 / 被服圧 / 圧センサー / 下肢 / 圧感覚 / R-R間隔 / LF/HF |
研究概要 |
本研究は下肢被服圧測定装置の開発を主眼とし,快適な下肢衣料を作るための指針を合わせて示すために,その主観的適正圧と客観的適正圧の範囲を策定し,真に下肢において適正な圧指標の作成を目標としている。その詳細は以下の3つの研究からなる。 下肢被服圧測定装置の開発:研究Iにおいて,日本人女性の平均体型の下肢マネキンを用いて,圧負荷と圧出力がほぼ直線関係となった圧センサーを,下肢マネキン上に本圧センサーを21か所埋め込んだ。実際にマネキンに靴下を履かせて,既存の液圧平衡方式による被服圧測定装置のポーチとマネキンに埋め込んだセンサーとを重ねて測定し,出力を比較したところ,用いる靴下素材によって差が生じることがわかった。これは埋め込んだセンサーが硬いため,下肢マネキンに履かせた靴下とセンサーとの間の状態が靴下素材によって変化し,浮きや圧力が一定に分散しない状態が生じたためと考えられる。今後更なる検討が必要となった。 主観的適正圧の測定:研究IIにおいて,周応力発生時の主観的適正圧範囲の測定では,実際に被験者を用いて下肢を実験衣で覆った時の,圧感覚を判定基準とした圧値を詳細に調べ,主観的適正圧を出した。体全体を頭から足先および手先まで22ブロックに分け,調べたとろ,下肢の適正圧範囲は胴部に比べ,有意に高いことがわかった。また,適正圧感覚は月経周期の位相・体位の変化・衣服素材によって変わるが,胴部に比べ有意に鈍いことがわかった。 客観的適正圧の決定:研究IIIでは,自律神経系の諸機能の圧刺激に対する応答の解析精度を上げ,再解析している。心拍数・R-R間隔を3分間測定し,R-R間隔のゆらぎを周波数解析し,交感神経由来周波数成分(HF)と副交感神経周波数由来成分(LF)の比(LF/HF)を求め,ストレス指標とした。実際の靴下装着時の応用例に対しても,更に更新した解析法を適用し,現在検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は研究Iの下肢被服圧測定装置の開発と,研究II①人体の下肢に圧負荷が加わった時の主観申告に発生する被服圧と②自律神経系の変化を指標とした客観的評価から成り立つ被服圧の圧範囲の明らかになりつつある。 平成25年度の研究計画では,Iの下肢モデルの21か所に圧センサーを組み込み圧表示できたが,その値を従来の液圧平衡方式による被服圧測定システムでの出力と比較したところ,柔らかい素材で被覆した場合などの測定条件によっては,圧出力が減少することがわかった。そこで,減圧分を適正圧に補正するための算定式を組んだ。この補正式を適用する場合には,測定条件の見極めが必要となるので,現在その条件を整理中である。また,補正式を使用しなくて済む,圧センサーの更なる開発も必要と考えている。その場合次項で述べるように,センサーに小袋をかぶせて被服素材表面とのあたりを柔らかくする方法も検討中である。 ①では,伸縮素材(靴下などに用いられるナイロンとスパンデックスを表面に用いたベルトを使用)を用いた快適な周応力発生時の全身の被服圧分布を22ブロック(頭部2部位,体幹部6部位,下肢部7部位,上肢部7部位),200余部位ずつ, 20歳代の成人女子15名で測定した。下肢部位の快適圧は胴部に比べ有意に高いことが分かった。更にこの内の下肢に関係する7ブロックについて検討したところ,足先へ向かう位置にある部位ほど,圧感覚が鈍くなることがわかった。 ②では,心電図のR-R間隔の揺らぎから,LFとHF成分を求め,その比からストレスを求めるプログラムを組み上げたが,更に精度を上げるための解析方法を検討している。プロトテストでは,昨年の解析よりも良い結果が得られているが,実際に靴下を着用した時に測定したデータを用いて,更なる検討をしているところである。以上述べたように,本年度の研究も,おおむね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
下肢被服圧測定器の開発:平成25年度の研究Iでは,使用した圧センサーが硬いので,硬いもので挟んだ場合の圧の出力は良好であった.しかし柔らかいもので挟まれた場合,圧出力は減圧されて表示された(特に水では1割以下となった)ことから,センサーの硬さに原因があると考えている。そこで,センサーを液体で満たした小袋中に封じ込み,更に加工して液圧平衡方式による被服圧測定装置から得られる値に近い圧出力が可能なセンサー作りを目指す。もしこの開発が更なる時間が必要であったならば,当座減圧される出力を補正する条件を整理し,条件ごとに算定式を組んで適用し,適正な出力が可能となるように工夫する。 また,ヒトの粘弾性の特性を測定するための簡易で安価な方法を検討し,ここで得られた値も参考にして,よりヒトの下肢の粘弾性特性を擬似して調節したシリコンゴムを圧測定予定部位に流し込み,擬似の下肢モデルを作る予定である。 圧の有効利用の適正圧値の把握:研究IIとして,前年度に主観的圧の適正範囲を明らかにしたので,26年度では②前年度作成したR-R間隔のゆらぎを用いた自律神経系の応答を測定して,ヒトに加わる負荷を数値化する。これと着圧の有無による下肢の容積の変化を比較しながら,効果的な下肢の圧迫値を明らかにする。25年度,①下肢の快適な圧感覚の被服圧分布が明らかとなったので,その影響も含めて,圧の有効利用範囲を決定する。 判定プログラム作り:研究IIIとして,平成25年度に決定した圧許容範囲を基準として,市販されている下肢衣料がヒトに適した圧範囲となるか否か判定するプログラムを作成する。例えば靴下などへの不満は①履きにくさ,②跡が残る,③足先が冷える,③しびれや痛み,④締め付けが不快,などが主な項目である。そこでこれら項目に対応する裏付けデータを組み込む。最終年度であるので,報告書のまとめと,論文発表の作成を予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に,これまでの成果を,まとめて論文への投稿を予定していたが,準備が間に合わず,投稿印刷料金として使用するつもりの経費が未使用となった。 前年度未使用額を含めた平成26年度の研究費使用計画は,論文投稿料,学会発表への参加費,センサー改良費,被験者アルバイト料金を予定している。以下にその詳細を示す。 平成25年度に投稿できなかった論文も含め,本年度には3~4本の論文の投稿を予定している。学会によって投稿料あるいは印刷料金は異なるが,3~4本の料金でほぼ20万円支出される見込みである.また学会出張として,繊維学会(東京6月開催1泊,参加費込で約5万円)とISF2014(東京2泊,参加費5万円を合わせると10万円)を予定しているので,15万円が必要である.また,センサーを更に改良するための材料費として5万円,被験者アルバイト料金として数万円を見込んでいる。
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