乳児の安全性を考える上で,温熱環境評価装置である「乳児型発汗サーマルマネキン」が必要である.本研究では,その開発基盤として,乳児体表からの顕熱・潜熱放散を再現する発汗シミュレータの開発を試みた. 乳児体表からの熱伝達特性として,無感気流下での熱伝達率は,頭部が約6 W/m2Kや体幹が4-6 W/m2Kの低値を示す一方,四肢が6-8 W/m2Kのやや高値を示した.これらの値は成人よりも高値であることから,乳児は成人と比べ,顕熱放散しやすい特徴を有することが明らかとなった. 角質層からの水分蒸発である不感蒸散を模擬する装置を製作した.この気相発汗模擬装置では,温熱的中性域における乳児の全身不感蒸散量約10g/m2hと同量の水が模擬皮膚内部に供給され,その内部にて蒸散することを再現した.模擬皮膚からの蒸発量は供給水量とほぼ同等であり,その表面は常に乾燥状態にあることが確認された.これらより,作製した気相発汗模擬装置は,乳児体表からの不感蒸散現象を再現していることが示された. 次に,汗腺から体表へ拍出される汗を再現する液相発汗模擬装置を製作した.この装置では,液相汗である水が模擬皮膚表面に供給され,水はその表面を濡れ広がって蒸発することと,蒸発しない水は模擬皮膚表面上に残留することを模擬した.発汗量として,15-80 g/m2hを設定し,模擬皮膚からの蒸発量を測定した.その結果,発汗量15-30 g/m2h程度の場合,乳児の熱産生量と同程度の供給熱量で模擬皮膚表面温が約33°Cを示すとともに,その表面に供給された水の殆どは短時間で蒸発した.他方,発汗量40-80 g/m2hの場合,無効汗量の発生が観察された.これらより,骨格筋による熱産生が殆どない乳児の場合,多量発汗が発生しても,体表の熱放散は潜熱よりも顕熱移動に依存することを,液相発汗模擬装置は再現していることが確認された.
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