本研究では、フランスの近世から近代にかけて量産された礼儀作法書にみられる服装規範に着目し、その対象が男性から女性に変化する背景を探ることによって、服装規範と深くかかわるモードの意味の変容を分析した。その結果、17世紀には青年貴族の宮廷社会における立身出世の術として機能した服装規範は、社会変動を経た19世紀にはブルジョワ女性の家庭内で守るべき規範へと変化したが、それはより高い社会的ステータスを約束される結婚のための重要な手段でもあった。近世から近代にかけて服装規範でもあるモードは、ジェンダー規範でありながら、両性にとって立身出世のための術として機能していたと結論できる。
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