浴室などで多く検出されるS. humicolaはアルカリ性培地でよく生育した。また、一般の森林帯の土壌とは異なって、石灰岩帯の土壌には多くの種類のScolecobasidium属のカビが見られた。伊吹山、三重県藤原岳などの山や、秋吉台、奥多摩日原、沖縄の鍾乳洞などいくつかの石灰岩帯の土壌から、様々なScolecobasidium属のカビが分離された。即ち、S. constricta、 S. excentricum、 S. tshamytschae、 S. verruculosumなどであった。一方で、セメントの粉塵が蓄積している都市公園からも、S. humicolaに遺伝的にも近縁の株が多く分離された。石灰岩帯および公園由来の株のいくつかは、pH9.7培地でもよく生育し、高濃度の石けんの主成分あるいは界面活性剤だけを添加した寒天培地でもよく生育した。また、50℃、10分間の温水に耐えられる株も分離された。それらの株と、浴室由来のS. humicola と生理的特性を比較した。そして、野外に生育していたScolecobasidium属のカビの中で、どのような形質を持った株が、浴室などへ侵入したかを解明した。その結果、上記の耐アルカリ性、石けん利用性、界面活性剤利用性、耐熱性のいずれの性質もS. humicolaの多くの株が保持しているのに対して、他種の株はいずれかの特性を欠いていることが分かった。とりわけ、都市公園由来の株は、界面活性剤利用性などについても、S. humicolaに類似していた。セメントとともに、住宅の近くに移入したS. humicolaの近縁種の内で、耐熱性などに優れた株が住宅の浴室などへの侵入し、定着したと思われる。
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