研究課題/領域番号 |
24500943
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
久保 加織 滋賀大学, 教育学部, 教授 (10190836)
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研究分担者 |
堀越 昌子 京都華頂大学, 現代家政学部, 教授 (30024970)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 伝統食 / 栄養価 / 嗜好性 / 機能性 / 発酵 / 脂質 / 官能評価 |
研究概要 |
日本の伝統的な食事の栄養価や嗜好性を明らかにして伝承につなげるために、調査および分析を行った。 まず、滋賀県内の伝統的な生活様式と食事について、湖北と湖南地方を中心に聞き取り調査を実施した。さらに、大学生を対象に代表的な伝統食である漬物に関する質問紙調査を実施し、漬物文化の伝承と若い世代の漬物に対する嗜好について検討した。 次に、滋賀県の伝統食としてふなずしと菜の花の漬物である黄金漬の分析を実施した。生ふな、塩ふな、ふなずしから脂質を抽出し、脂肪酸組成と過酸化物価、カルボニル価、TBARS値を測定した。その結果、脂質含量は3~8%であり、脂肪酸のうちドコサヘキサエン酸が7~8%、イコサペンタエン酸が6~8%を占めることが明らかになった。また、生ふなから塩ふなを経てふなずしになる工程で脂肪酸組成に変化はほとんどなく、過酸化物価、カルボニル価、TBARS値からも脂質の酸化はほとんどされていないと判断した。 黄金漬は、稲作の裏作として栽培される菜種油の原料としての菜の花の収量をよくするために育成過程で間引かれた菜の花を有効活用するために作られたのが始まりである。黄金漬は、独特の風味と色彩が特徴であるが、くせがあり、最近では浅漬けも製造され、新漬けとして販売されている。原料である菜の花と黄金漬、新漬けの脂質含量と脂肪酸、塩分、有機酸、揮発性成分を分析し、官能評価を実施した。成分分析の結果、黄金漬、新漬けともにα‐リノレン酸が約50%を占める脂質を含んでいることが明らかになった。また、黄金漬には長期熟成中の発酵による種々の有機酸が高濃度に含まれ、pHも低くなり、様々な独特の香りを持つ揮発性成分が検出され、それが酸っぱく独特の風味につながっていた。一方、新漬けでは発酵がそれほど進んでおらず、それが酸味の少ない"くせ"のない風味につながっていると示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
伝統食に関わる調査は、ほぼ計画通り進んだ。伝統食の成分分析として、嗜好性についてはほぼ計画通りの分析を実施し、発酵食品の嗜好性の特徴を明らかにすることができた。しかし、栄養面での評価が塩分と脂質についての分析にとどまり、保存面についても脂質酸化に関連する分析のみの実施となった。ビタミン類とタンパク質やアミノ酸、食物繊維の分析と微生物検査は次年度の実施になった点が、やや遅れている点である。 一方、機能性面については、計画通り、文献調査を進めた。また、伝統食の現代の生活様式に合わせたアレンジの試みについては、菜の花漬けの新漬けというくせの少ない漬物の嗜好調査を従来の黄金漬と比較しながら、機器分析と官能評価によってすすめたことにより、くせについての検討を実施することができ、成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、日本の伝統的な食事の栄養価や嗜好性を明らかにして伝承につなげるために、調査および分析を実施する。 まず、平成24年度の聞き取り調査を継続し、湖西や湖東地方にも調査対象を広げ、滋賀県の地域ごとの特徴とここ数十年間の伝統的な生活様式と食事の変化について明らかにする。また、平成24年度に実施した漬物に関する質問紙調査を大学生以外の世代を対象に実施し、世代間の考えや嗜好性の違いについて検討する。 次に、滋賀県の代表的な伝統食の価値の評価のために、魚および野菜の伝統的な漬物を対象として各種分析を行い、評価する。栄養面での評価として、昨年度に続いて塩分、脂質(脂質含量、脂肪酸組成)を分析するとともに、HPLCによって各種ビタミン(A, B群、 C、D、E、K)を分析し、プロスキー変法による食物繊維の定量についても検討する。また、保存性については、微生物検査と脂質酸化に関連する指標(過酸化物価、カルボニル価、TBARS値)の測定、官能評価(色、匂い、味、食感など)により評価する。機能性については、文献調査をさらに進めてこれまでの成果を整理するとともに、抗酸化活性の測定を実施する。 さらに、平成24年度の研究結果を踏まえて、伝統食の現代の生活様式に合わせたアレンジについて検討する。機器分析による嗜好性成分(pH、塩分、有機酸、核酸関連物質、遊離アミノ酸、揮発性成分など)の分析と官能評価により、若い世代に好まれにくい嗜好性成分と付加することで嗜好性を向上させるような成分を探る。さらに、好まれにくい成分の除去、あるいは嗜好性を向上させるような成分の付加につながる食材や加工法、調理法を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
代表的な伝統食の成分分析のための機器分析に必要な消耗品費(分析カラム、溶媒、試薬、微生物試験用培地、器具、試料など)を計上している。また、生活様式と食事についての聞き取り調査のための旅費と成果発表のための学会出張費を旅費として計上している。さらに、研究補助のための謝金を計上している。
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