A 小麦澱粉には、澱粉粒表面に存在したり(10%)、澱粉と緩く結合したり(40%)あるいはアミロースと複合体を形成したりしている(水飽和ブタノールによる熱抽出画分50%)LPCが三種類存在することを明らかにした。糊化からゲル化するときに緩い結合をしたLPCが澱粉の結晶構造に取り囲まれた状態になると推測された。ゲル化の機構を解明する重要な示唆を与える。小麦澱粉(普通澱粉)の糊液がピーク粘度に到達した後、最低粘度付近(95℃)の糊液の熱抽出画分には、添加PCが取り込まれた。より多く取り込まれると考えられる50℃でゲル化している糊液を用いて調べた。その結果、熱抽出画分へのPCの取り込みは95℃よりも著しく低かった。その要因の一つに95℃と50℃でのPCの物理的状態の違いが考えられた。 B 澱粉の粘度特性をRVAを用いて調べた。①LPCの添加は澱粉の粘度上昇開始時間(Pasting Time)を延長させ、濃度が高い場合は、RVAプロファイルが異型になった。PCの添加はPTを短縮させ、最高粘度を上昇させた。モチ小麦澱粉(97%アミロペクチン)はPCとLPCの影響をほとんど受けなかった。②PCとLPCの混合物を用いた時、LPCの割合が低くてもその影響は現れたが、小粒子澱粉への影響はPCの方が大きかった。③モチ小麦澱粉と澱粉の割合を変えた混合澱粉は、互いに影響を受けることなく、それぞれ個別に糊化が進行していることが示された。④モチ小麦澱粉と澱粉の比が1.6:2.4の混合澱粉(ほぼ同程度の最高粘度)を用いてPLの影響を調べた。PCは単独の澱粉に対する影響と同様に、混合物であっても個別に影響を与えている。しかし、LPCの場合は、単独の場合と異なりモチ小麦澱粉のピーク粘度を著しく低下させた。以上の結果は乳化剤として食品に添加されているレシチンの役割を見直すきっかけになるかもしれない。
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