研究課題
本研究の目的は、糖尿病の合併症である血管障害の発症に関わる未知の機構を解明し、防御に役立てることである。平成25年度には、培養ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)における平成24年度に確立した糖尿病性血管障害モデル細胞系を用いて、研究を行った。平成24年度に、糖尿病性血管障害モデル生細胞において、グルタチオン依存系の抗酸化能が顕著に抑制されていることを見出だし、その原因に関わる可能性をもつ新規候補化合物を合成することができたので、今年度は論文投稿および追加実験を行っている。また新たに、合成したグルタチオンのN位糖化物が、グルタチオンペルオキシダーゼとグルタチオン還元酵素の活性を顕著に阻害することも見いだした。さらに、糖尿病性血管障害モデルHUVECを用いて、食品成分であるミリセチン(Myr)が、高濃度グルコースによるHUVECのアポトーシスを抑制する防御因子として働くことを見いだした。(0.025 mMの添加で回復)また、すでに糖尿病患者の血管内で増加することで知られるジカルボニル化合物であるメチルグリオキサール(MG)を用いて、本研究代表者が発見した新規候補化合物との比較実験を行うため、まずはMG添加培養実験を行った。MGを添加した培養HUVECでは、糖尿病性血管障害モデル細胞と同等な形状(アポトーシス)を示し細胞死に至った。さらにこれまでの報告と異なり、より低濃度でのMGの添加で培養血管内皮細胞の障害が初めて認められた。(1.0 mMで細胞死が起こらないとされるこれまでの報告よりも低濃度である0.5 mMのMG処理でも約87%の細胞死が起こっていることを認め、0.2 mMにて初めて耐性を認めた。)現在、本研究にて発見した新規候補化合物とMGとの細胞毒性の比較実験を進めているところである。これまでにグルタチオンの糖化が糖尿病性血管障害の発症に関わるという報告は皆無であり、本研究において新規な側面が解明される可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、培養細胞を用いた実験であるが、平成25年度より赴任した大学には培養施設が存在せず、常勤先だけではなく学外共同研究先の施設も利用する努力や、常勤先の大学へできるだけ早く実験施設導入がされるための努力を続け、不便な中でも目標が達成できるよう懸命に研究を行ってきた。平成26年度4月にやっと培養設備が完全に揃い、次年度からはさらに実験を行いやすくなる。本研究は、これまでに全く報告のない物質についての研究で、大変新規性が高く、また実験方法についても非常に独創的な独自の実験系を用いている。正確を期すため何度も再現性を確認しながら研究を遂行してきており、時間はかかっているが、次年度はさらに計画以上に進展させたいと望んでいる。
平成25年度に赴任した新しい勤務先において、平成26年度4月に培養設備が導入されたことから、平成26年度は実験環境が整い、前年度以上に研究活動が行いやすくなる。本研究にて合成した糖尿病性血管障害の新規原因候補化合物について、培養ヒト血管内皮細胞を用いて詳しくバイオアッセイを行う予定である。具体的には、新規候補化合物を培養血管内皮細胞に添加し、細胞障害が引き起こされる条件について詳細に検討を行う。また、糖尿病ラットの血管細胞中および糖尿病性血管障害モデル培養細胞中に、本研究にて発見した新規候補化合物が存在するか否かについて、詳細に検討を行う。整い始めた新しい研究室を率いて、さらに研究を飛躍させたい。
平成25年度は12,794円の残額があったが、次にまず必要であった試薬の価格はそれ以上のものであり、次年度への繰り越しのうえ、購入することとした。残額12,794円は平成26年度に繰り越し、細胞培養の試薬代とする。
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