研究課題/領域番号 |
24500972
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
長井 薫 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (20340953)
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キーワード | 健康と食生活 / 神経変性疾患予防 |
研究概要 |
本研究の目的は、食品由来天然物によるエピジェネティクス制御作用、特にヒストン脱アセチル化酵素(Hdac)活性制御を介した新しい神経変性疾患予防・治療法を開発することである。本年度の主な研究実施計画は、神経系の細胞に対する作用の分子機構の解析であった。それに従って、平成24年度にHdac活性制御作用を見出した分枝脂肪酸であるフィタン酸およびプロポリス成分について、それぞれの神経系の細胞に対する作用について解析を行った。その結果、平成25年度には主に以下の結果が得られた。 1.フィタン酸について、昨年度、これまで知られている脂肪酸類とは逆にHdac活性化作用を有することを見出したことから、フィタン酸がHdac活性化分子として神経系の細胞にどの様な影響を与えるのか解析を行った。低級脂肪酸系Hdac阻害剤は神経保護作用を有することが報告され始めているが、活性化作用を有するフィタン酸は神経系の細胞株Neuro2a細胞に対し細胞毒性を示すことを見出した。また、その毒性作用はミトコンドリア機能障害を介している事を見出した。 2.昨年度にブラジル産プロポリス抽出成分にHdac阻害作用がある事を見出したが、今年度Hdac阻害成分の同定ならびに神経細胞保護効果に関して解析を行った。その結果、主要含有成分の中にHdac阻害活性がある分子の存在を見出した。また、神経変性疾患における神経細胞死のモデルとなる神経系細胞小胞体ストレス誘導神経細胞死に対してプロポリス抽出成分ならびにHdac阻害分子が保護作用を示すことを見出した。その保護作用には小胞体シャペロンの発現誘導作用が関与している結果が得られたが、その作用機構については現在検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画全体では、1) Hdac活性制御物質の探索、2) 活性制御分子による神経保護効果の解析、3) 神経保護効果の分子機構の解析、を目的としている。当初計画では、平成25年度は主に神経保護効果の解析を計画していた。従って、Hdac阻害活性が認められたプロポリス成分に関しては神経保護効果を、Hdac活性化が見られたフィタン酸については神経細胞毒性について解析を行った。 プロポリスに関しては、主要な構成成分の幾つかにHdac阻害作用があることを確認した。さらに、プロポリス抽出液には既知のHdac阻害剤と同様にストレスからの神経系細胞保護効果が見られることを確認し、その保護作用が小胞体シャペロンの発現誘導およびカスパーゼ系の活性化の阻害を介していることを見出した。しかし、in vitroでのHdac酵素活性阻害濃度よりも保護作用を示す至適濃度のほうが低いことから、現在その分子機構について検討を行っている。 フィタン酸については、in vitroでのHdac酵素活性の阻害作用だけでなく、神経系の培養細胞Neuro2a細胞に対してヒストンのアセチル化量を減少させる作用があることも確認した。そして、Neuro2a細胞に対し細胞死誘導作用を示し、その細胞毒性作用はHdac阻害剤により抑制されることからHdac活性化を介することが示された。また、細胞死誘導過程においてミトコンドリア機能の低下が見られたこと、既知のHdac阻害剤では逆にミトコンドリア機能亢進が見られたことからHdac活性によるミトコンドリア機能制御の可能性を示唆する結果が得られた。 以上のことから、概ね当初の計画通りに進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後については、食品由来成分からの他のHdac活性制御分子の酵素活性測定系を用いた探索を継続しつつ、25年度に得られたフィタン酸の神経系細胞毒性効果およびそのHdac活性制御を介した作用機構の解析、プロポリス抽出成分の神経保護効果に関する細胞内作用機序の解析を行う予定である。 フィタン酸については、Hdac活性化作用および神経系細胞毒性作用について、活性化するあるいは細胞毒性につながるHdacのサブタイプ特異性について、主に細胞毒性抑制作用の観点から解析を行う予定である。また、フィタン酸毒性の解析過程において見出した、ミトコンドリア機能の制御に関わるHdacサブタイプとその作用機序についても解析を行う予定である。 プロポリスについては、主要構成成分の幾つかに、Hdac阻害作用があることが確認されたが、Hdac阻害作用を介したがん細胞特異的細胞毒性作用は確認されたものの、神経保護効果についてはHdac阻害作用を介するのか否かについて疑問が残る結果となった。しかし、Hdacによる発現制御の報告がある小胞体シャペロンタンパク質の発現上昇効果は確認されたことから、特異的Hdac阻害作用やシャペロンタンパク質領域周辺のヒストン修飾状態、あるいは他の作用の可能性も含めて保護機構の検討を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
現在進行中のHdac活性制御分子の探索に関する解析において、その酵素活性のキットについては一部安定性の低い成分が存在する。次年度の予定として、新規Hdac活性制御分子の探索実験を継続しつつ、これまで活性制御作用を見出した分子については次の解析を行っていく予定にしている。次年度の当初の研究費使用予定は主に作用機構解析に関する試薬の購入を予定していることから、安定性の低い探索用試薬を次年度の探索実験の日程に合わせて購入することとした。 その他については研究計画の大幅な変更をする状況ではないので、ほぼ申請当初の研究費使用計画である。 物品費として酵素活性測定キット類や細胞培養関連試薬類、抗体類、一般試薬類として年間1,015,546円を使用予定である。研究成果の国内、海外における学会発表のための旅費として年間30万円を使用予定である。英語原著論文発表のための英文校閲費用の謝金として年間5万円を使用予定である。
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