研究課題/領域番号 |
24500986
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
伊藤 友子 (大矢 友子) 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80329648)
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キーワード | 糖尿病合併症 / メイラード反応 / メチルグリオキサール / ペルオキシレドキシン6 / プロテオミクス解析 / 酸化ストレス |
研究概要 |
食品由来の機能性因子について生体レベルで正確に評価出来る系を確立し、糖尿病合併症予防の作用機序に関して分子メカニズム解析を行うことを目的としている。メチルグリオキサール(MG)は、解糖系及び非酵素的糖化反応(メイラード反応)のカルボニル化合物中間体で反応性が極めて高いため、タンパク質と反応して安定な付加体(Advanced Glycation End-products; AGEs)を生じる。この付加体は糖尿病合併症の発症進展リスクの指標として有望視されている。赤血球の主要な抗酸化酵素であるペルオキシレドキシン6(Prx6)は、その発現量が多く、MGによる修飾を受けやすいことが判明した。詳細なMALDI-TOF/MS/MS解析から、Prx6活性中心Cys-47の酸化修飾およびMG修飾がPrx6酵素活性低下の最重要原因であると示唆された。本年度の研究実施計画として、昨年度マウス血液を利用し測定条件検討を行った血中Prx6とMG修飾タンパク質の値について、ヒト血液由来の抽出タンパク質を利用し、再現性試験と検証を行った。その結果、(1)微量血液(1 μL)で測定可能、(2)HbA1cと同じ調製法のため臨床検査用血液で同時にあるいは残渣で測定可能であることが、立証された。また、MG修飾Prx6の値はHbA1cの値とは相関が一致せず、HbA1cでは予測できない合併症発症進行のリスクマーカーとなることが期待された。今後、糖尿病患者100名の臨床検体を用い、罹患期間や合併症の進行度、グリコアルブミン値との関係を解析予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
MG修飾Prx6をマーカーとした評価系確立のため、「Prx6とMG修飾タンパク質の測定条件検討」と「MG修飾Prx6の分子標的としての有用性検証」を行い、ともに主な実施計画を達成した。具体的には、血液由来抽出タンパク質について、ウエスタンブロッティングやELISA法によって定性的、定量的な測定を行い、測定条件設定と同時に、採血の条件(採血状態)とタンパク質抽出条件を決定した。また、これまで糖尿病の臨床マーカーとして利用されてきたHbA1cとの比較検討を行い、モデル動物とは違い、ヒト臨床検体では必ずしもMG修飾Prx6の値がHbA1cの値とは相関しないことを示した。
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今後の研究の推進方策 |
ストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルマウスや肥満を伴うdb/dbマウス等を利用して血中MG修飾Prx6が分子標的となり得るか検証を行う課題において、MALDI-TOF/MS解析によりMG修飾Prx6の同定を試みたが、検出限界以下のため成功しなかった。生体成分(血液)由来では、リコンビナントタンパク質とは異なり、ターゲットとなるMG修飾Prx6が極微量であることを鑑み、今後以下の方法を実施する。既に確立しているMG修飾タンパク質を認識する抗体の詳細なエピトープ解析の技術(OyaらJ Biol Chem. 1999)を応用する。免疫沈降法、つまりMG修飾Prx6ペプチドを2種類の抗体により濃縮する方法を利用する。さらに、検出感度を上げるため、最大10回までの多段階MS/MSが可能であり、部分構造、官能基、劣化部位や抱合体の解析が有効かつ広いマスレンジにおいて多数のプロダクトイオンを観測可能であるLTQ Orbitrap測定を実施する。現在、この測定について、医薬基盤研究所の技術的協力を得てモデルタンパク質を使用して既に進行中である。
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次年度の研究費の使用計画 |
生体成分(血液)由来のMG修飾Prx6についてMALDI-TOF/MS解析を試みたが、検出できなかった。そのため、予定していた質量分析関連試薬(タンパク質消化酵素、マトリックス等)の使用量が大幅に少なかった。 糖尿病患者100名の臨床検体を用いてMG修飾Prx6の有用性検証を引き続き行うため、次年度使用研究費の多くは、質量分析関連試薬(タンパク質消化酵素、マトリックス等)、アッセイ系評価のために使用する種々の生化学試薬、分子生物学的試薬、特異性が高く高感度な抗体(一部については自作抗体を用いるため保管費用のみとなる)、ELISA測定に使用するプラスチック類器具(96穴プレートを含む)等、消耗品費が占める。
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