研究課題
食品由来の機能性因子について生体レベルで正確に評価できる系を確立するとともに、食品因子による糖尿病合併症発症予防作用機序の分子メカニズム解析を行うことを目的としている。メチルグリオキサール(MG)は、解糖系及び非酵素的糖化反応(メイラード反応)のカルボニル化合物中間体で反応性が極めて高いため、タンパク質と反応して安定な付加体(Advanced Glycation End-products; AGEs)を生じる。この付加体は糖尿病合併症の発症進展リスクの指標として有望視されている。赤血球の主要な抗酸化酵素であるペルオキシレドキシン6(Prx6)は、その発現量が多くMGによる修飾を受けやすい。ヒト血液を利用しMG修飾Prx6を測定した結果、糖尿病患者の空腹時血糖と高血圧に対しそれぞれMG修飾Prx6値の正の相関が認められた。本年度の研究実施計画として、臨床検体においてMG修飾Prx6と、糖化タンパク質として有望視されているグリコアルブミンとの比較を行った。グリコアルブミン値とMG修飾Prx6値との相関は認められなかった。グリコアルブミン値は、HbA1cと正の相関(p=7.15666E-14)が認められ、同時に血清アルブミン値と負の相関(p=0.026)が認められた。また、MG修飾Prx6の酸化ストレスマーカーとの関連について検討を行った。MGによる修飾の程度と酸化ストレス亢進に相関が認められた。赤血球中のPrx6酵素活性と、MG修飾タンパク質、アクロレイン修飾タンパク質、酸化修飾Prx6の各測定を行った結果、Prx6の酵素活性低下は各種タンパク質修飾率の増加に対し正の相関が認められた。以上の結果より、MGの生成或いは蓄積、およびそれによるタンパク質修飾がPrx6を含む抗酸化酵素の失活を惹起し、赤血球中の種々のストレスを増強している一因と考えられた。一方で、食品由来の機能性因子を生体レベルで評価する系を確立するため、動物モデル作製に着手した。
2: おおむね順調に進展している
MG修飾Prx6をマーカーとした評価系確立のため、「Prx6とMG修飾タンパク質の測定条件検討」と「MG修飾Prx6の分子標的としての有用性検証」を行い、ともに主な実施計画を達成した。モデル動物だけでなく、ヒト臨床試験由来の血液を利用し、罹患期間と合併症の進行度を考慮した解析を行うことができた。MG修飾Prx6値は、罹患期間の長さや高脂血症、心筋梗塞、脳梗塞、潰瘍性大腸炎併発等との相関が認められた。これまで糖尿病の臨床マーカーとして利用されてきたHbA1cとの比較検討を行い、モデル動物とは違い、ヒト臨床検体では必ずしもMG修飾Prx6の値がHbA1cの値とは相関しないことが判明した。HbA1c値は合併症の進展を示す各種パラメーターとの相関は認められず、この値だけでの糖尿病進行の予測・判断が危険であること示唆された。糖化タンパク質として有望視されているグリコアルブミンとの比較を行ったところ、MG修飾Prx6の値とは相関が認められず、両者の体内における異なる生成メカニズムが示唆された。
食品由来の機能性因子について生体レベルで糖尿病合併症の発症および進展に与える影響を評価する。大豆に含まれるイソフラボンおよびタマネギに含まれるケルセチンを対象として、それらの影響を検討する。効果が認められた場合には、その機序解明に向けて、生体試料を用いて、MG修飾タンパク質やPrx6、種々のストレス制御の関与を中心に解析する。
測定方法を変更したため、質量分析関連試薬(タンパク質消化酵素、マトリックス等)の使用量が予定より少なかった。
次年度使用研究費の多くは、生体試料の各種評価のために使用する種々の生化学試薬、分子生物学的試薬、特異性が高く高感度な抗体、ELISA測定に使用するプラスチック類器具(96穴プレートを含む)等の消耗品費が占める。研究費の一部は、研究成果発表のための学会誌投稿料が占める。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
PLoS One.
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Sci Rep.
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