食品由来の機能性因子について生体内で正確に評価できる系の確立と、食品因子による糖尿病合併症発症予防作用機序の分子メカニズム解析を目的とした。最終年度ではメタボリックシンドロームに対するケルセチン摂取の影響をメチルグリオキサール(MG)修飾付加体を指標として検討した。西洋型食8週間摂取により作成したモデルマウスにケルセチンを西洋型食と同時投与した。投与群においては非投与群と比して肝臓における脂質蓄積減少、総コレステロール値減少、線維化抑制、ALT、MCP-1、PPARγ並びに脂肪酸やトリグリセリド合成を制御する転写因子(SREBP-1c)の各遺伝子発現レベル減少、とともに血中のMG修飾付加体量減少が認められた。また、酸化ストレスの指標となり得る4-ヒドロキシ-2-ノネナール(HNE)修飾付加体量の血中における減少が認められた。SREBP-1cは肝臓における主要なインスリンシグナルメディエーターであるインスリン受容体基質(IRS-2)発現を抑制することで肝臓のインスリン抵抗性亢進に関与する。ケルセチンは西洋型食摂取に由来するSREBP-1c遺伝子発現増加を改善させることにより脂質代謝と糖代謝の両方を調整していると考えられた。本研究で得られた血中の酸化ストレス(HNE)と糖化ストレス(MG)の両結果とも矛盾しない。さらに、血中の抗酸化酵素ペルオキシレドキシン6のMG修飾付加体(MG修飾Prx6)およびPrx6酸化修飾体の値は上記モデル系において投与群で非投与群と比べてその減少が認められた。以上のことから、メタボリックシンドロームにおいては脂質代謝と糖代謝の両方が複雑かつ相互に関連し、また、MG修飾Prx6が酸化ストレスと糖化ストレスを同時に評価する有望な指標となり得ることが示唆された。ただし、作用機序を明らかとするためにはその他の指標と組み合わせて更なる詳細な検討が必要である。
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