これまでに,緑茶に含まれるエピガロカテキンガレート(EGCG)の混餌投与はラットの糞重量量を増加させ,Clostridium属の菌叢バランスを低下させるという研究成果を得た。紅茶にはカテキン類が重合した高分子ポリフェノール化合物が含まれることから,本年度は高分子ポリフェノール化合物を含む紅茶抽出物をラットに投与したときの腸内細菌叢に及ぼす変化を比較解析するとともに,盲腸内短鎖脂肪酸を指標にした糖質の発酵性についても検討を加えた。 市販の緑茶,紅茶を50%エタノールで昼夜抽出し,抽出物を作成した。ラットは,コントロール食群,高脂肪食群(20%ラードを含む),高脂肪食に緑茶抽出物を添加した緑茶群,高脂肪食に紅茶抽出物を添加した紅茶群の4群に分け,3週間飼育した。飼育3週目に回収した糞を用いてT-RFLP法による腸内細菌叢の解析を行い,さらに解剖時に採取した盲腸内容物を用いて短鎖脂肪酸を定量した。 糞中腸内細菌叢の解析にて,高脂肪食群ではコントロール食群よりもBacteroidesの占有率が低下することが確認された。緑茶群では高脂肪食群で低下したBacteroidesの占有率が増加し,さらに,既存成果と同様にClostridiumの割合が減少した。紅茶群では緑茶群よりも顕著にBacteroidesの占有率が上昇した。盲腸内容物中の短鎖脂肪酸含量は,コントロール食群と比較して高脂肪食群で低下し,緑茶群ではさらに低値を示したが,紅茶群ではコントロール食群レベルまで増加した。 以上より,ラット腸内細菌叢に対する緑茶抽出物と紅茶抽出物の作用は異なることが示唆された。特に,紅茶群で盲腸内容物中の短鎖脂肪酸含有量が増加したことについて,α-アミラーゼ阻害を介したデンプンの消化抑制の結果,大腸に流入した未消化デンプンが基質となって発酵性が増したのではないかと推察された。
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