研究課題
基盤研究(C)
ラット SHARP-1 は basic helix-loop-helix 型転写因子である。現在までに、わたくしどもは、SHARP-1 遺伝子の発現がインスリンにより誘導されることを明らかにしている。今年度は、SHARP-1 遺伝子のインスリンによる誘導メカニズムについて、おもにシグナル伝達機構の面から詳細に検討した。ラット高分化型肝癌細胞株である H4IIE 細胞をインスリン処理した後、total RNA を調製し、リアルタイム PCR 法を用いて細胞内における SHARP-1 m-RNA の発現量を測定した。その結果、SHARP-1 mRNA はインスリンにより2時間と、比較的早期に誘導されることが明らかになった。つぎに、シグナル伝達経路を同定するために各種酵素の阻害剤で処理した。PI3-K 経路の阻害剤である LY294002 と wortmannin, protein kinase C (PKC) の阻害剤である staurosporin、DNA依存性RNAポリメラーゼの阻害剤である actinomycin D 、タンパク質合成阻害剤の cycloheximide により SHARP-1 mRNA の誘導は強く阻害された。また、Rac1 inhibitor や JNK inhibitor II(Jun N-terminal kinaseの阻害剤)により、部分的に阻害された。さらに、aPKCλ および Rac1 のアデノウィルスドミナントネガティブ変異体を感染させたところ、インスリンによる SHARP-1 mRNA の誘導は、有意に阻害された。したがって、インスリンによる SHARP-1 遺伝子の発現誘導は、PI3-K - aPKCλ 経路を介していること、PI3-K からその一部が Rac1 - JNK という経路を介していることが示された。
2: おおむね順調に進展している
糖尿病ラットおよびインスリン投与した糖尿病ラットでの SHARP 遺伝子の発現の継時的変化については、現在検討中である。SHARP-2 を発現するアデノウイルスは、大量精製を行っている。SHARP-1 を発現するアデノウイルスについては、発現プラスミドを作製する段階まで進行した。インスリンによる SHARP-1 遺伝子の発現誘導機構はかなり詳細に検討できた。SHARP 遺伝子 family の発現を in vivo で誘導できる食品成分として、新規にフルクトースを同定した。
糖尿病モデル動物での SHARP family 遺伝子の発現の変動をより詳細に検討する。SHARP-1 および SHARP-2 を発現するアデノウイルスを大量調製して、実験動物に導入する。SHARP-1遺伝子の転写開始点上流1.5 kbまでを含む DNA 断片を、PCR 法にて増幅後、ルシフェラーゼリポータープラスミドにサブクローニングする。本プラスミドをリン酸カルシウム法を用いて H4IIE 細胞にトランスフェクションした後、インスリン存在下・非存在下でのプロモーター活性をデュアルルシフェラーゼアッセイ法を用いて測定し、この領域にインスリン応答性配列が含まれているかどうかを検討する。含まれていれば、各種のデリーションコンストラクトを構築し、インスリン応答性配列を決定する。含まれていなければ、さらに上流を増幅して解析を行う。初代培養肝細胞を用いて、フルクトースの作用を検討する。各種シグナル伝達経路の阻害剤を用いて、フルクトースの作用にどの経路が関与しているかを同定する。
細胞培養に必須の牛胎児血清は、ラット初代培養肝細胞を対象にして、ロットチェックを行わなければならない。生じた繰越金は、最適なロットを大量購入する費用に充てる。当初から次年度に割り当てていた予算は、当初の目的で使用する。
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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http://www.matsumoto-u.ac.jp/teacher_hp/yamada/index.html