乳がんの発生には、女性ホルモンであるエストロゲンの長期曝露が一因であると言われている。卵巣から分泌されるエストロゲンは、解毒代謝酵素シトクロムP450(CYP)により代謝活性化され、カテコールエストロゲンおよびそのキノン体を生成する。これらはDNA付加体を形成し、酸化的損傷をもたらすことが報告されている。既に我々は天然物由来のフラボノイド化合物がCYP1活性の選択的阻害を示すことを報告した。本研究では、脱プリン塩基の検出および単細胞ゲル電気泳動(コメットアッセイ)を用いたDNA鎖切断を指標とし、ヒト乳がん細胞によるエストロゲンのDNA損傷性並びにフラボノイド化合物によるDNA損傷抑制効果について検討した。 ヒト乳がん細胞MCF-7に17β-エストラジオール(E2)またはカテコールエストロゲンを添加して一定時間保持した後、細胞を回収した。一方でフラボノイド化合物を添加し15分間前処理を行った後、同様の処理を行った。脱プリン塩基の検出はDNA Damage Quantification Kitを用いた。コメットアッセイは回収した細胞をスライドグラスの上でアガロースの薄層に封入し、溶解液に60 分間、次いでアルカリ性溶液に20 分間浸漬しDNAの一本鎖化処理を行った後、アルカリ性条件下で電気泳動(25V、300mA、30分間)し、中和・脱水を行った。DNA 染色を行った後、細胞を蛍光顕微鏡によって観察し、画像解析ソフトにより核外へのDNA断片の流出割合を指標にDNA損傷の程度を評価した。 脱プリン塩基は、カテコールエストロゲンの一つ4-OHE2 30μM処理1時間後に有意な増加が認められたが、E2 30μM処理では変化は見られなかった。コメットアッセイの結果、E2単独処理では無処理と比較しDNA損傷(Tail Distance、Tail Moment)の増加を認めた。一方、フラボノイド化合物単独処理では、DNA損傷の増加は認められなかったが、フラボノイド化合物およびE2の複合処理により、DNA損傷の低下が認められた。
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