生体には様々な親電子物質や活性酸素種からもたらされる酸化ストレスに対して防御するシステムが構築されている。このシステムでは転写因子であるNF-E2-related factor 2 (Nrf2)がセンサーとしてその発現の制御をおこなっている。Nrf2ノックアウトマウス(Nrf2KO)では高脂肪食(HFD)やメチオニンコリン欠乏食(NASH誘発食)において容易に脂肪肝を誘発し、酸化ストレスマーカーを増加させる事からNrf2が脂質代謝と酸化ストレス制御双方に関与している可能性が示唆されていた。摂取する油脂の脂質組成の差異は脂質代謝、エネルギー代謝のみならず酸化ストレスに影響を及ぼすと考えられている。食餌中脂質の量的な差が酸化ストレス制御センサーであるNrf2- keap1系に影響を及ぼす事が知られている。このことは脂質代謝とNrf2-keap1系による酸化ストレス制御の間にクロストークが存在すると推測できる。そこで本研究では脂質吸収・代謝とNrf2-keap1系に対し相互に如何なる関連があるのかを解明する事を目的とする。 本研究では、まず食餌中脂肪酸組成の差異が脂質代謝とNrf2系に如何なる影響を及ぼすかを系統的に検討し、脂肪酸組成が肝臓、小腸の脂肪酸合成系、異化系、コレステロール代謝、胆汁酸代謝に影響及ぼす事のみならず、肝臓、小腸の細胞膜上のABC transporter発現に影響する事やNrf2関連遺伝子産物の発現に影響する事に加え、脂肪酸組成による脂質・胆汁酸代謝にはNrf2系が関与する事を見出した。次にコレステロール吸収制御がNrf2による酸化ストレス制御系に及ぼす影響を検討し、Nrf2がLXRαを介した脂肪酸、コレステロール代謝をコントロールしている事を明らかにした。最終年度にはNrf2 activatorが脂質代謝に及ぼす影響を検討した。
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