研究課題/領域番号 |
24501015
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 園田学園女子大学 |
研究代表者 |
尾関 百合子 園田学園女子大学, 健康科学部, 教授 (00169301)
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研究分担者 |
岡 真優子 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (40347498)
田丸 亜貴 大阪府立公衆衛生研究所, その他部局等, 研究員 (70270767)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ポリフェノール / 結核菌 / マイクロアレー / BCG |
研究概要 |
結核菌は世界最大の細菌感染症である結核症を引き起こす。結核菌の感染は発病に至るとは限らないが、感染成立後に人の免疫系は細胞内寄生菌である結核菌を完全に排除することはできず、増殖を停止した休眠状態で人の体内に潜伏し、このうちの5~10%が一生涯に、糖尿病やHIV感染者ではさらに高い確率で感染菌の再増殖により結核を発症する。本研究は食品成分である安全なポリフェノールによる免疫活性化を介した抗結核作用を検討することを目的としている。 本年度はヒトを対象としたポリフェノールの結核菌増殖抑制能を探索する目的でヒト単球系細胞株THP1を用い、PMA( Phorbol 12-Myristate 13-. Acetate)で活性化しマクロファージに分化したのち、結核菌の感染前、あるいは感染後にポリフェノールを添加して細胞内の菌増殖抑制能を検討した。感染前にポリフェノールを添加した場合はルテオリンで顕著な増殖抑制がみられた(100 μM, 50 μM)。感染後の添加ではルテオリン、クルクミン、ケンフェロールで顕著な増殖抑制がみられた(100 μMおよび50 μM)。一方、菌に対する直接的な増殖抑制がみられるポリフェノール濃度はいずれもこれらよりも高く、50 μMではどのポリフェノールでも増殖抑制はみられなかった。この現象はポリフェノールがTHP1細胞の免疫活性化を介して菌の増殖を抑制していると考えられる。細胞内結核菌増殖抑制に効果的とされているTNF-alphaやIFN-gammaについて検討した。しかし、培養上清中のTNF-alpha産生量はポリフェノール添加群とコントロール群での差はなく、感染後にIFN-gammaを添加してTHP1を活性化した場合も顕著な差が見られなかった。現在、THP1細胞内の菌増殖抑制機序を解析するためにRNAを採取してマイクロアレー解析を実施中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は食品成分であるポリフェノールによる安全で、精神的抵抗が少なく、かつQuality of Life を尊重した、新規の結核治療や結核予防の開発を目指している。 ポリフェノールは現行の抗結核薬のような治療薬とは異なるため、短期間での劇的な効果を期待することはできない。しかし、抗結核薬のような副作用はなく、日常、食品からあるいはサプリメントというかたちで長期間、安全に服用できるという利点がある。このように軽微ではあるが確実なポリフェノールの抗結核作用を検討する場合は細胞レベルでの実験が必要になる。これまではマウス由来のマクロファージおよびBCGを用いて実験を行ったが、今回はヒト細胞株THP1に結核菌を感染させて検討した。市販の13種類のポリフェノールについてスクリーニングを行い、その中で結核菌増殖抑制能が高い3種類のポリフェノールを見出し、細胞毒性を検討した結果、そのうちの2種類についてTHP1の活性化を介した作用機作を解明するという見通しを立てた。一部、培養上清中のサイトカイン測定、細胞外からの活性化による検討を進めているが、顕著な結果が得られていない。作用機作解析は遺伝子発現解析が主流であるため、RT-PCR法を予定していた。しかし、今回のようにポリフェノールによる細胞の活性化を介した結核菌抑制機作という複雑な系の解析ではターゲットとなる遺伝子が予想できない。当初の予定に加えて、遺伝子発現を網羅的に解析するため、マイクロアレーによる解析を実施中である。これと並行して結核菌感染のみでも発現に影響を与えることが知られている遺伝子についてRT-PCRでの解析を実施するために準備中である。平成24年度と25年度は作用機作解析が主流であるため、24年度は準備に時間を費やしたがおおむね予定の方向性で進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の7月頃には、結核菌感染THP1、非感染THP1、結核菌感染THP1-ポリフェノール、非感染―ポリフェノールのマイクロアレーのデータ(mRNA)が得られるので、それをもとに転写レベルでの解析を行う。解析結果から必要性が生じた場合は上流でmRNAの転写を制御しているマイクロRNAについてもマイクロアレー解析を予定している。マイクロアレー(mRNA)で変化のあった遺伝子についてはRT-PCR法でもmRNAの増減を確認する。転写レベルで増加のあったタンパク質については細胞からタンパク質を抽出し、特異抗体を用いてウェスタンブロットを行い、翻訳レベルでの発現増強を確認する。遺伝子発現のパターンより結核菌の殺傷に関わると推定される分子のsiRNAを作成し、細胞に作用させる。候補分子の発現を抑制することでポリフェノールによる結核菌の増殖抑制効果が減衰することを確認し、ポリフェノールによるマクロファージ活性化の責任分子を同定する。これらの実験を平成25年度と平成26年度に実施する。細胞レベルで顕著な結果が得られた場合はマウスに対して、ポリフェノール投与とBCG感染を行い(実験設備の都合で結核菌感染は無理なので)、効果を判定する(平成26年度)。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題は平成24年度から26年度までの3年間にわたる内容であるため、年度ごとの研究費使用額については多少の流動性をもたせている。平成24年度についてはプラスチック製品、細胞培養メディウムについては共同研究先の物品を一部使用させていただいたこと、また、マイクロアレー解析の支払いが平成25年度になったことなどで使用予定額 よりも少ない金額となった。平成25年度はマイクロアレー解析に70~100万円を見積もっている。プライマー、siRNA合成に約20万円、試薬購入およびプラスチック実験器具購入に40~50万円、謝金に10~20万円、旅費に約30万円を予定している。
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