研究課題
結核菌は世界最大の細菌感染症である結核症を引き起こす。結核菌は一旦感染が成立すると人の体内から排除されることなく増殖を停止した状態で人のマクロファージ内に寄生し、栄養状態や高齢化による感染者の免疫力の低下とともに再増殖をはじめ、結核を発症する。本研究はマクロファージ内に寄生する結核菌に対して増殖抑制効果を有する安全なポリフェノールを作用することで結核発症予防および補助的な治療を目指している。ヒト単球系細胞株THP1細胞をマクロファージに分化し、それに感染した結核菌に対して増殖抑制活性を有し、かつ細胞障害性の微弱なケンフェロールの作用に焦点を当て、網羅的解析を実施した。結核菌感染細胞(INF-non)は非感染細胞(Cont-non)に比べ、2倍以上発現が増加した遺伝子が1468、0.5以下に減少したものが1556見いだされた(Cont-non vs INF-non)。ケンフェロールの作用のみで変動する遺伝子数は増減ともに約半数であり(Cont-non vs Cont-ken)、結核菌感染細胞に対してケンフェロールの作用により変動をうける遺伝子数も同様に増減ともに約半数であった(INF-non vs INF-ken)。結核菌感染により、Toll like receptor を介するシグナル伝達、I型およびII型インターフェロンのシグナル伝達、酸化ストレス応答経路、オートファジーなどが活性化されるが、ケンフェロールの存在によりこれらの経路が抑制されることがパスウェイ解析より、明らかとなった。細胞内結核菌の殺菌に対して抑制的作用を持つインターロイキン4(IL-4)のシグナル伝達経路も感染により活性化されるがケンフェロールはこの経路も抑制した。また、ルテオリン、ケンフェロールはマウスマクロファージ細胞株RAW264.7中で活性酸素消去能を持つことも明らかとなった。
3: やや遅れている
感染が成立した結核菌はマクロファージ内で生息し、その増殖抑制も細胞の活性化を介して行われると考えられる。最初は細胞内結核菌の殺傷に関わると予想されるタンパク質に焦点を絞ってリアルタイムPCRを実施する予定であったが、ポリフェノールという要素が絡んでくると増殖抑制メカニズムが予想できないためにmRNAの発現量の網羅的解析が可能なマイクロアレー解析に切り替えた。mRNAを採取するためには多量の細胞数と菌数が必要であり、96穴マイクロプレートで実施した増殖抑制効果を検討する系とはスケールが異なるため、この系を確立することに予想外の時間を要した。また、結核菌の取り扱いにはバイオセーフティーレベル3(BSL3)の設備が必要である。代表者の所属機関(園田学園女子大学)も客員研究員として所属している大阪市立大学もこの設備を所有していない。このため、最初は特殊な設備を必要としない牛型弱毒結核菌BCG感染細胞でサンプルを準備していたが解析量が高価なため、最終目標である結核菌に切り替えた。分担者(田丸)の所属機関はBSL3の設備を有しているが時間的制約のあるなかでの実施であったので予想外の時間を要した。以上の理由により、メカニズム解析の進行は遅れたが、ルテオリン、ケンフェロールが細胞内で活性酸素消去能を有することが明確となり、また、これらのポリフェノールがマクロファージの分化も制御することがわかったため、予想外の結果も得られた。
今回のマイクロアレー解析では、非感染-ポリフェノール無添加(Cont-non)、非感染-ケンフェロール添加(Cont-ken)、結核菌感染―ポリフェノール無添加(INF-non)、結核菌感染-ケンフェロール添加(INF-ken)の4群についてCont-nonを基準として4群間でパスウェイ解析を実施し、有意差のあるパスウェイを抽出した。したがって4群間での変動は把握できたがTHP1内での結核菌増殖抑制におけるケンフェロールの作用が明確にならなかった。そのため、Cont-non とCont-ken間および、INF-nonとINF-ken間での発現量の比較に関してパスウェイ解析をやり直すことを計画している。これらの解析から発現量に有意差がみられたパスウェイに焦点を当て、その中で有意にmRNAの発現量に変動が見られた遺伝子についてRT―PCR法で確認する。また、転写レベルで増加のあったタンパク質に対して特異抗体を用いてウエスタンブロットを行い、翻訳レベルでの発現増強を確認する。これらのタンパク質についてsiRNA(small interfering RNA)を作成してケンフェロール存在下で結核菌感染THP1細胞に移入し、結核菌増殖抑制が減弱することを確認する。以上の実験結果からケンフェロールの細胞活性化を介した増殖抑制メカニズムを解明する。これと平行してケンフェロール、ルテオリンのマクロファージ分化制御についても明らかにする。
プラスチック製品、培地など汎用性の広い物品に関しては過去に購入した物品の残りや共同研究先の物品を譲渡されたために支出が予定よりも少なくなった。また、予定していた実験の順序を入れ替える結果となったので試薬購入が次年度に繰り越しになった。以上の理由により、25年度に使用予定であった予算が一部26年度に使用することになった。ポリフェノールの結核菌増殖抑制のメカニズムについてマイクロアレーのパスウェイ解析をやり直す。THP1細胞感染時におけるケンフェロールの増殖抑制に有意に関わるパスウェイから責任分子を見いだし、RT―PCR法で確認する。さらに感染細胞からタンパク質を抽出し、ウェスタンブロットを行い、翻訳レベルでの増減についても検討する。発現が増加したタンパク質については感染細胞にケンフェロール存在下、siRNAを導入して結核菌の増殖抑制の減弱を確認する。これらの他にケンフェロールやルテオリンのマクロファージの分化についてもそのマーカーとなるタンパク質を指標に検討する。
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