研究課題/領域番号 |
24501027
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 福岡工業大学 |
研究代表者 |
永田 純一 福岡工業大学, 工学部, 教授 (70237527)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 健康と食生活 / 機能性食品 / 安心・安全な利用法 |
研究概要 |
本研究では、健康食品を安心・安全、適切な利用ができる基礎的な環境整備を通して国民の健康の保持・増進及び公衆衛生の向上をはかるため、利用頻度の高い機能性食品あるいは食品成分に着目し、医薬品との併用による相互作用や健康影響の評価を行っている。 当該年度は、類似の作用機序を有する降圧剤と血圧が高めの人を対象とした機能性食品成分の併用摂取による薬効への影響や生体への健康影響に関して本態性高血圧モデル動物を用い評価検討を行った。 具体的には、アンジオテンシン転換酵素(ACE)の阻害作用が作用機序である医薬品(タナトリル)とACE活性阻害効果が示されている血圧が高めのヒトを対象とした機能性食品素材(サーディンペプチド)を12週間併用摂取した際の医薬品による降圧作用に対する機能性食品成分の影響(相乗・相加効果あるいは相殺効果など)や健康影響に関して、高血圧モデル動物(SHR)を用いて機能性食品と医薬品の併用摂取による血圧、レニン-アンジオテンシン系血圧調節因子に及ぼす影響を検討した。 その結果、高血圧モデル動物の収縮期および拡張期血圧に対して併用摂取による顕著な相乗・相加効果あるいは相殺効果などの血圧応答を認めなかった。また、医薬品によるレニン活性の低下を示し、レニン-アンジオテンシン系において血圧上昇に関与する基質の低下が認められ、機能性食品成分の影響は認められなかった。一方、実験動物の血液生化学指標の結果から、併用摂取による顕著な生理学的影響を認めなかった。 以上の結果より、高血圧モデル動物において降圧作用が期待される機能性食品成分の摂取は医薬品の血圧調節作用に影響せず、血液生化学指標から併用摂取は比較的安全な利用が可能な組み合わせと考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高齢化社会の進行や生活習慣病罹患者の増加に伴い、食生活を通じた健康づくりに対する関心が高い。 健康食品を利用するヒトの中には、医薬品と併用して摂取する場合が想定されるが、一部の健康食品には医薬品 と類似の作用機序を有する食品がある。医薬品の効果あるいは疾病に及ぼす健康食品あるいは食品成分の影響や相互作用、健康影響に関してこれまでほとんど報告されていない 。本研究では、生理学的根拠が示されている健康食品や機能性食品成分が医薬品服用者に及ぼす影響や疾病リスク因子に及ぼす影響について検討を行う。薬剤治療を必要とする生活習慣病罹患者における健康食品の安心・安全で適正な利用に関する評価を行うことを目的とした研究である。 当該年度、我々は血圧に焦点を当て血圧が高めのヒトを対象とした機能性食品(サーディンペプチド)が医薬品と同様の作用機序(ACE阻害活性)で血圧を調節することに着目し、高血圧モデル動物を用いて併用摂取による薬効への影響や生体への影響に関して12週に及ぶ併用摂取実験を行った。 その結果、医薬品の服用により血圧を一定に維持した状態において、健康食品の摂取は医薬品の降圧作用に影響を及ぼさないことと血液生化学指標から比較的安全な摂取が可能なことなどが明らかになった。 これらの成果は、2012年12月に行われた栄養補助食品・機能性食品国際学会(ISNFF2012)で発表された。現在、論文を作成しており、これまでのところおおむね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、健康食品を安心・安全、また適切な利用ができる基礎的な環境整備を通して国民の健康の保持・増進及び公衆衛生の向上をはかるために、利用頻度の高い機能性食品あるいは食品成分に着目し、医薬品との併用による相互作用や健康影響の評価を行うことである。特に生活習慣病疾病リスク因子改善あるいは治療のために医薬品を服用しているヒトや疾病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)罹患者の安全な健康食品利用に関する評価検討が目的である。 今後の研究も実験実施計画の内容に沿った方向で実施する予定であるが、申請時に予定した実験実施内容は、実験結果を考慮した優先順位の再検討、実験環境、使用機器やモデル動物入手などを考慮し適宜実施する予定である。具体的には、次年度は降圧作用が異なる作用機序を有した医薬品と機能性食品素材を併用する予定であったが、初年度の実験結果で同様の作用機序を有する医薬品と機能性食品素材の併用摂取が顕著な医薬品への影響や健康影響を認めなかったため、次年度は対象とする疾病を糖尿病に変更し、糖尿病患者における健康食品利用の影響について検討を行う予定である。 糖尿病は、食事コントロールや運動による疾病改善が重要な疾患であり、特に日常の食事が果たす役割は大きい。糖尿病の特徴として高い血糖値、インスリン耐性などが知られているが、ケトーシスも糖尿病の特徴的な病態の一つである。機能性食品素材の中には,ケトン体産生に寄与する食品成分(中鎖脂肪酸:MCT)を含む商品が販売されており、これらの使用による健康影響に関する調査研究は重要な課題と考え、優先的に実施する予定で計画をしている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
ストレプトゾトシン誘導I型糖尿病モデル動物において中鎖脂肪酸を含む機能性食品摂取による病態への影響を評価検討する。 I型糖尿病患者は、急性の合併症としてケトアシドーシスを発症することが知られている。中鎖脂肪酸は、体内で速やかに酸化されケトン体を産生するが、体脂肪に関連する健康表示が行われている中鎖脂肪酸を含む機能性食品には、糖尿病患者への注意喚起等は行われていない。このように、I型糖尿病患者におけるこれら機能性食品の利用は、ケトン体上昇の可能性が考えられ、病態の進行あるいは健康影響が懸念される。 本実験では、糖尿病モデル動物におけるこれら健康食品の利用に関する検討を行う。具体的には、ストレプト ゾトシン誘発糖尿病モデル動物に中鎖脂肪酸を含む食餌を与えたときの血中ケトン体濃度、血糖値、インスリン濃度などを調べ、健康影響に及ぼす中鎖脂肪酸の影響を明らかにするため、機能性食品素材、動物飼育器具および動物、試薬およびケトン体等測定用キット、血糖値モニタリング機器等の購入に研究費を使用する予定である。 また、中鎖脂肪酸の代謝によってもたらされる脂質代謝の変化を調べるため、GC/MSによる測定を予定しており、機器整備費として予算を執行する予定である。さらに、呼吸商を調べエネルギー産生の基質としての利用を調べる実験を検討しているが、実施する上で機器のレンタルや機器使用量などでの対応が可能か検討する。概ねこれらの実験に研究費を執行する予定である。
|