研究課題/領域番号 |
24501043
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
藤林 紀枝 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (20238603)
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研究分担者 |
片岡 香子 新潟大学, 災害・復興科学研究所, 准教授 (00378548)
小林 昭三 新潟大学, 人文社会・教育科学系, フェロー (10018822)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 地学教育 / 火山 / 火山防災 / 火成岩 / マグマ / 火山噴火 / 火山砕屑物 |
研究概要 |
本研究の目指すところは,地学を学習する機会の少なかった理科教員に、火成岩と火山活動の学習領域において、物理学・化学分野の基礎的学習事項と連結した学習指導を可能にすることにある。中学校理科2分野上の「変動する大地」の単元は、第1章「激しく活動する大地」と第2章「地球の歴史をきざむ地層」に分けられ、第1章は「地震」、「火山の噴火や活動」、「火成岩のつくりやでき方」の3部で構成される。このうちの「火山の噴火や活動」では、マグマ、マグマの粘性(ねばりけ)、噴火の激しさ、火山の形、溶岩の色あい、火山噴出物、火山災害についてまとめられている。そして「火成岩のつくりやでき方」で、火山灰中の鉱物観察や岩石の肉眼観察を行いながら、火成岩の組織や火成岩をつくる鉱物を学習する(学校図書「中学校科学2上」より)。しかし、火山噴火や岩石は生徒にとって必ずしも身近な事象ではない。噴火が起きるしくみや、身近な岩石ができるしくみに目を向けさせたいものである(藤林・平中2010)。 そのため、本年度(初年度)は次の(1)~(3)を実施した。 (1)中学校教員養成のためのマグマと火山活動の学習内容に、マグマの「飽和」と「飽和生成物の三態」、超臨界流体および気体の「体積変化」の教材を作成した。 (2)実際の飽和生成物の例として,十和田火山のプリニー式噴火で放出された軽石と佐渡島小木半島の中期中新世の溶岩噴泉から放出された玄武岩質スパターの野外調査を実施し、サンプルを採取した。これらを粘性の異なる火山放出物として、発泡組織の変化を教材化した。 (3)十和田火山の軽石については,火口近傍から遠方までの降下堆積物を採取し、軽石の大きさと発泡組織(気泡密度や気泡サイズ)の変化を示す教材を作成した。それにより、火山放出物の空間的広がりと、火山噴火の素過程に科学的思考を働かせる学習内容の素案を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの噴火の演示実験は、メントスを炭酸飲料に加えて激しい噴火をアナログ化する実験が主体であった。しかし、これでは気泡の挙動がわかりにくいし、また実際の火山噴火でおこる減圧発泡ではない。 火山噴火については、1990年代以降、粘性の異なる油を用いた2相流実験(Vergniolle and Jaupart, 1990)と、炭酸水を用いた減圧実験(Sparks et al., 1994; Mader et al., 1994)が、噴火の素過程を表す実験として紹介されている。そこで本研究では,高速度カメラを導入して,粘性の異なる液体での気泡の形成、膨張、合体、破裂の一連の過程を撮影し、火山噴火におけるマグマの破砕と形成される破砕物(火山砕屑物)の大きさおよび気泡の大きさの変化を計測する実験を計画した。それによって、SiO2成分に乏しいマグマ(玄武岩質マグマ)と富むマグマ(珪長質マグマ)でマグマの破砕メカニズムが大きく違うことを示すことを目指している。 しかし、高速度カメラのデモンストレーションを要請し,炭酸飲料の減圧発泡実験を撮影してみたところ,撮影速度に対応した露出の不足により、良い映像が簡単に撮れないことがわかった。そのため、高速度カメラを用いた教材作成は次年度に再検討することにした。
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今後の研究の推進方策 |
(1)中学校の「火成岩」と「火山活動」の学習に、理科第1分野「身の回りの物資」の学習内容を取り入れた学習過程の作成:マグマ中の火山ガス成分(H2O、 CO2、 SO2)の飽和は、状態が固体(結晶)ではなく気体として飽和するので、単元「身のまわりの物質」の「物質の性質」の章における「状態変化」つまり固体、液体、気体の三態と、水•水蒸気の体積変化の学習とリンクする(藤林・平中, 2010)。今後(25、26年度)は、市販の炭酸水作成容器を用いた実験を試行し、教材作成につなげる。また、高速度カメラをレンタルして、その実験の液体および気泡の破砕過程を撮影する。 (2)十和田火山、榛名火山、桜島火山の火山放出物の採取:プリニー式噴火は、マグマ中の気泡の量が75%以上になったとき、気泡が破砕して大量の火山ガスが放出され、その衝撃波の伝搬で気泡壁を作っていたマグマが破砕されて、火山灰サイズの火山ガラスや軽石が一緒に放出されると考えられている。一方ブルカノ式は、火道の栓が吹き飛ばされて減圧が起こり、マグマの発泡、気泡の破砕が起こるとされている。これらのような噴火の素過程を代表する火山放出物を教材化する。そのため、3つの火山からプリニー式噴火とブルカノ式噴火の降下火砕物の採取を行い,違いを可視化する。 (3)カルデラ湖決壊によって起こる火山性洪水のモデル図の作成:火山性洪水のモデル図を作成し、火山防災の教材を作成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度購入を予定していた高速度カメラのデモンストレーションを行った際,炭酸飲料等の減圧発泡実験をマクロ撮影するには露出不足であることがわかった。そのため、アナログ実験の教材撮影方法を再検討する必要が出てきた。そこで、次年度は高速度カメラをレンタル(レンタル料300,000円/2週間)する事により、露出の問題を解決する方法を検討、改善する。レンタルによる撮影を2回計画しているおり、その料金を含む実験費用として約700,000を使用する予定である。また、火山噴火の素過程を表す放出物の代表的サンプルの採取を十和田火山,榛名火山,桜島火山で実施するため調査旅費を500,000円(3名)、調査補助および資料整理のための謝金を200,000円、WEBページの作成料として300,000円、IAVCEI(鹿児島)での学会発表の旅費200,000円(2名)を使用する予定である。
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