研究実績の概要 |
本研究課題の目的は,疑似科学,特に超常現象に対する信奉の説明原理として提唱されている誤帰属仮説が,超常信奉以外の疑似科学,特に巨大な市場規模を持つ健康関連疑似科学や,近年著しい発展を遂げている脳神経科学に関連した疑似科学への信奉に対しても適用可能かどうかを検証し,多様な領域における疑似科学信奉の背後にある認知過程の特徴を記述した上で,そのような誤った信念の解消に批判的思考を初めとする思考態度および認知能力が効果を持つかどうかを検討することにあった。
上記の目的のため,超常信奉,および疑似科学信奉を測定するための尺度の整備を行った。超常信奉については,先行研究(小城・坂田・川上, 2008; Roberts & Seager, 1999) において用いられた尺度から本研究用に項目を厳選し,疑似科学信奉尺度については,新規の尺度として作成した。 思考態度および認知能力は,思考の二重過程理論が仮定する,直観・経験的処理および論理・分析的処理の強弱を測定する情報処理スタイル尺度(内藤・鈴木・坂元, 2004; Pacini & Epstein, 1999),経験的知識と論理の妥当性が拮抗する三段論法課題(信念バイアス課題),標本抽出,ランダムネスなどを踏まえた確率判断課題を用いて測定した。
本研究の結果,超常信奉および疑似科学信奉は,認知能力との関連は見られず,誤帰属仮説は説明原理としては適切ではないことが示された。一方で,近年,二重過程理論の仮定する2つの処理システムの利用傾向との間に関連が認められた。ただし,一部,これまで欧米の対象者から得られたデータとは異なる反応パターンも観察されており,将来的な比較文化研究の必要性が指摘されている。
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