研究課題/領域番号 |
24501085
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
早岡 英介 北海道大学, 高等教育推進機構, 特任講師 (10538284)
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研究分担者 |
三上 直之 北海道大学, 高等教育推進機構, 准教授 (00422014)
杉山 滋郎 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30179171)
藤吉 亮子 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70229061)
鳥羽 妙 尚絅学院大学, 生活環境学科, 講師 (70437086)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 科学コミュニケーション / 映像メディア / トランスサイエンス / 科学技術政策 / 科学教育 / 科学技術対話 / 市民参加 / ワークショップ |
研究概要 |
本研究は、映像メディアの特性を活かして、市民参加型の新たな科学技術対話を構築し、研究者と市民のあいだに双方向の科学技術コミュニケーションを生み出す手法を探るのが目的である。近年、注目されている討論型世論調査においては、無作為抽出でミニ・パブリックス(社会の縮図)を作り上げ、そこでの熟議をもって民意をはかる。 その際、論点を整理した上で、何らかのメディアを使って、サンプルとなる小集団に対して情報を提供することが求められる。そこでは活字、写真、映像、イラスト等、多様なメディアが用いられる。本研究では、活字、写真、映像、BGMなどの組み合わせを試行して、情報提供メディアの特性について明らかにし、科学技術対話とメディアの関係性について有意義な知見を提供することを主目的としている。 まず今年度は対話のテーマとしてふさわしい問題をリサーチした。研究分担者とのミーティングから、「低線量被曝の許容」「がれきの受け入れ」「原子力発電所の再稼働」「除染の範囲」「自然エネルギーの導入」といった東日本大震災と原発事故に関連したテーマがいくつか出された。しかし、トランス・サイエンスに属する問題の中でも「明確に答えられない曖昧なもの」「価値観というよりは技術的知識によって回答が出てしまうもの」「現実に影響しない空論的なもの」があり、熟議にふさわしいテーマを選ぶのは意外と困難であることが分かった。 そこで今回は市民にとって身近な食品を対象として「福島のお米、あなたは食べますか?」というテーマを設定した。特に米は2012年10月末、出荷解除され、現在も全袋検査など、人によっては過剰ともとれるような検査を実施しており、魚や野菜より議論しやすい。福島県産品の販売促進を法制化するという報道もあり、反発する声も出ている。テーマとしては時宜を得ており、また普遍的な議論へ展開できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画書において、関連した取材と論点の整理を終わらせることになっているが、現在のところすべての取材が終わっているわけではない。これまで株式会社ジェイラップ代表で稲田稲作研究会の伊藤氏(東京)、株式会社大地を守る会事業戦略部放射能対策特命担当の戎谷氏(千葉)、福島県農林水産部水田畑作課長の井上氏(福島)へのヒアリングを実施し、資料の収集を行って報告書を作成した。 取材対象としては、食品の放射性問題の専門家(安心して食べて良いという論拠を主張)に対して、相反する専門家(リスクに関する市民感情を尊重。消費を公的機関が奨励すべきでない)という2者に出演していただく必要がある。これについては、まだ映像で分かりやすい解説をしていただける方を検討しているところである。米と放射能という問題設定をしてはみたが、取材対象は米作農家、小売、行政など多岐にわたる。こうした取材対象の広さから、取材がまだ十分にできておらず、達成度はやや遅れていると判断している。 ワークショップの設計についてはある程度、方針を決めることができた、上記のような論点を取材し、それぞれのエッセンスを活字と写真で表現した「活字資料」と、映像で表現した「映像資料」の2つを作成し、ワークショップを開催することによって、市民のあいだでディスカッションしてもらう。活字メディアも併用するのは、映像メディアだけでは相対評価や考察が難しいからである。 1グループ5人×4グループ(計20人)で実施、先に活字と写真の資料を見てもらってから意見をたずね、次に映像資料を見てもらって、また意見を聞く。最後にもう一度、討論してもらって最終的な意見を決定してもらい、その考え方の変容を分析する。場所を札幌だけとするか、福島や東京も入れるのか、また何回開催するのか等は、今後の検討課題である。また参加する市民の選定方法についても慎重な検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は遅れている取材を、引き続きリサーチ会社や映像制作会社の協力も経て進めていく。また参加者の選定については、北海道新聞がもつ読者モニターの情報を活用することも考えている。 ワークショップを実施するにあたり、市民が出した結果をどのように評価するかは、慎重な検討が必要である。アンケート内容やヒアリング項目をどのように設計するか。政府や専門家の説明が適切でないと言われるが、適切な説明とはどんなものなのか。細かい部分はこれから詰めていくことになるだろう。 個別の争点をいったん情報提供メディアとしてパッケージすることによって、直接的なワークショップによらず、インターネットや新聞、テレビなどの力を借りて、大規模な論争に発展させることも可能になるだろう。そうした多様な対話形態への展望も示したい。 今後も日本人は、廃炉も含め、少なくとも半世紀は原発とつきあっていく必要がある。大学やメディア組織には、対話の場を生み出す役割が社会からも期待されており、こうした対話の方法論を社会に還元していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
ソフト、消耗品、テキストの購入、さらに千葉および福島での行政担当者へのヒアリングに関する出張旅費のため、平成24年度内に使用・支出している。
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