当初計画における課題の内,懸案であった以下についての実験法を確立し,学校現場での実践を行った。 1.プラスチックの識別実験 高密度ポリエチレン(PE),ポリスチレン(PS),ポリ塩化ビニル(PVC),ポリエチレンテレフタラート(PET),ポリ乳酸(PLA)からヒドロキサム酸法を用いてポリエステル系プラスチックであるPETとPLAを選別する方法を確立した。ヒドロキシルアミン硫酸塩と発色時に添加する酸水溶液として希硫酸を用いることで実験の時間を短縮でき,鉄(III)錯体の呈色の濃淡によってPETとPLAを識別する方法を確立し,呈色の差が,PETとPLAにおけるエステル結合の反応性に起因することを示した。また本法を組み込んだ上記五種類のプラスチックの識別実験を確立した。またヒドロキサム酸法をアセテート,ポリエステル(PET),6-ナイロン,アクリル繊維,絹,羊毛,木綿,レーヨンの各繊維の識別実験に適用した。加熱5分後における溶液部分の呈色によってアセテートとポリエステルを,繊維の着色によってアクリル繊維を,さらに加熱10分後の溶液部分の呈色と硫化物イオンの検出によって羊毛と絹を選別できた。 2.エステル構造異性体の識別実験 ペンタン酸メチルの4種類の構造異性体(いずれもメチルエステル)について,ヒドロキサム酸法を用いる識別実験を開発した。陽イオン界面活性剤触媒を添加することなく0℃で5分間反応させることで,エステル結合近傍の立体障害の差に基づく呈色の濃淡が現れ,各異性体を識別することができた。また酢酸ブチルの4種類の構造異性体(いずれも酢酸エステル)に対して,同様の反応条件でヒドロキサム酸法を行うと,酢酸n-ブチル・酢酸iso-ブチルと,酢酸sec-ブチル,酢酸tert-ブチルを識別することができた。この呈色の差も,エステル結合近傍の立体障害の差によると考えられる。
|