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2013 年度 実施状況報告書

直感的問題発見とピアレビューのスキルを高めるアカデミックライティングの学習環境

研究課題

研究課題/領域番号 24501147
研究機関成蹊大学

研究代表者

鈴木 聡  成蹊大学, 理工学部, 助教 (70516377)

研究分担者 鈴木 宏昭  青山学院大学, 教育人間科学部, 教授 (50192620)
杉谷 祐美子  青山学院大学, 教育人間科学部, 准教授 (70308154)
キーワードアカデミックライティング / CSCL / 協調学習 / ピアレビュー / 省察 / 読み手視点
研究概要

本研究課題では,アカデミックライティングの学習において,ピアレビューにおけるレビューする側が得られる効用に着目しながら,協調学習の教育実践を通した研究を推進してきた.アカデミックライティングの過程をみると,まずレポート・論文で問う問題を設定した上で文章作成に取りかかる形が適切といえるが,この問題設定の段階に長らく着目してきた.問題設定における重要な活動として,関連する文献の調査や問題構築的読解とともに,ピアレビュー,ジグソー学習法,学習支援システムを介したコメントのやりとりといった,学習者間の相互作用が位置づけられる.多くの研究がこのような学習者間相互作用を通じて,学習者の文章の質の改善がみられたことを指摘している.
同時に,学習者自身が産出した意見に対する省察も重要となる.ただ単に他者からのフィードバックを受けて学習者が意見を修正するだけではなく,その他様々な情報を含め,省察により学習者が意見を吟味することが重要といえる.この過程の中で,他者からのフィードバックを受け取るだけでなく,学習者自身が他者に宛てたフィードバックを行うことが,学習者の文章の質を改善させていることを示唆する研究も存在する.他者へのフィードバックを行うことが,省察の大きな契機になりうることも指摘されている.また,大学生のピアレビューにおける論理面での改善において,異なる主張をする他者を想定した反論や,主張する対象を絞り込む限定といった面での改善は難しく,ピアレビューのみでは解決困難な問題も存在することを示唆している.そこで,そのような問題点にもつながると位置づけられる,論証推敲支援システムの開発・評価を行った.以上を踏まえ,他者との対話・省察の両輪が成り立つよう,授業設計の工夫や学習支援システムの開発といった学習の場づくりを進めることが重要と考え,次年度の研究の指針として捉えている.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

4: 遅れている

理由

今年度は研究代表者の所属変更があり,研究環境・方針の見直しを迫られ時間を費やしてしまい,計画より遅れた面も出てきた.これまでメインとしてきた研究対象の学生は教育学専攻の学生であったが,現在の所属である理工系の学生を対象とし,また大学の環境に合わせた授業実践を考える必要に迫られている.学習者が身につける上で適切なアカデミックライティングのスキルのうち,たとえばアウトライン作成から推敲までの計画的・構造的文章作成能力など分野に依存しないものも多い.一方で分野に依存する面もあり,問題設定のアプローチは理工系の学生の場合,人文系・社会科学系の学生などとは異なり,あらかじめ与えられた問題設定に対して学生自身が自分なりに知識を構成した上でレポート・論文を作成する必要がある.授業実践もこれを前提に,特に後者の分野に依存した面を意識して計画された授業に対し,いかに前者のような分野に依存しないスキル獲得の内容を組み込むかという観点で,授業や卒論指導などを通して学生の実力を把握しながら,次年度に向けた授業計画を立て,研究成果にするための準備に専念した.
その上で,本研究課題のメインテーマである,ピアに向けたフィードバックを行うことによる,フィードバックの送り手の省察の促進という観点での研究が必要となる.しかし,フィードバックに関する研究について,1度きりの授業実践による分析により行われているものも多い.また,複数回にわたる授業実践を行う場合においても,多様なフィードバック機会の中での送り手の省察という観点からペアやグループの組み方についても工夫を要すると考えられる.このような工夫を含めた授業実践を行う場合,組み合わせの手法の構成や省察を促す内容を含めた授業内容の準備,ならびにこれをベースとした授業支援システムの開発といった準備にも時間が必要となっており,計画の遅れの要因となっている.

今後の研究の推進方策

本年度以降,理工系の大学生に向けたアカデミックライティングの学習機会としてコンピュータシミュレーション実習の授業に着目する.ここではシミュレーションに向けた現象のモデル化,シミュレーション結果の現実における解釈という実践的な利用者も見落としがちで,初学者にはもちろん困難な課題が存在する.現象のモデル化についてはプログラミングの領域に依るものも大きい.しかし,特にシミュレーション結果の解釈における理解の程度を測るには,レポート作成による文章化は不可欠であり,また協調学習を通した省察も有効とみられる.具体的には,プログラミングも伴う実践であり,また授業を行う教室の制約や協調プログラミングの実践として実績のあるペアプログラミングの手法が有用と考えられるため,これらの手法の組み合わせによる協調学習支援システムを開発し,実際に授業で運用・評価を行う予定である.
また,学生同士によるピアレビューも改善の余地を残している.たとえばレポートの問いの明確化や他の意見との比較による相対化など,深められる考え方もあれば,書き手と異なる意見に対する反駁や問いの対象の絞り込みといったピアレビューでは深めにくいという知見も存在する.これらに対して,反論を行うであろう相手を想定して書くようになどという教示のもとで書き手がレポートを書くと反駁が行えるという先行研究も存在する.しかし,研究代表者らは,これまで直感・感情に基づく問題構築的読解によるレポートの問題設定という,直接的な教示に頼らずに学習者の自発的な気づきを促す学習環境づくりを行ってきた.これとはまた異なる視点から,学習者の自発性を中心とした反駁・限定に関する記述の産出がどのような思考過程,スキル獲得過程を通じて得られるかについて,意見文生成や質問紙調査を中心として検討する予定である.

次年度の研究費の使用計画

研究分担者に資料収集・研究発表に伴う出張旅費として経費を分担していたが,出張期間の都合上次年度使用額が生じたため.
次年度は主に授業実践のための学習支援システムの開発・運用に充てる.円滑なシステムの運用のため,システムを動作させるサーバに用いるPCの予備機やデータのバックアップ用ストレージ,無停電電源装置といった不慮の事態でシステムの運用が止まらないような体制づくりをまず行う.さらに,研究成果の発表や研究関連の資料収集を積極的に行うべく,旅費や学会参加費の利用に充てる.教育工学に関する発表機会が得られやすい日本教育工学会,教育システム情報学会,人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本認知科学会などの大会・研究会での発表を見込んでいる.国際会議では米国教育工学会(AACE)が主催するSITEなどの国際会議・ワークショップで,システムの構築や予備的評価ができた段階での発表を準備する.

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2014 2013

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Toulminモデルのベイジアンネットワーク表現を用いた論証推敲支援システム2013

    • 著者名/発表者名
      宇都 雅輝, 鈴木 宏昭, 植野 真臣
    • 雑誌名

      電子情報通信学会論文誌

      巻: J96-D ページ: 998-1011

    • 査読あり
  • [学会発表] レポート・ライティングの授業デザインを考える2013

    • 著者名/発表者名
      杉谷 祐美子
    • 学会等名
      関西地区FD連絡協議会ワークショップ
    • 発表場所
      関西大学
    • 年月日
      20131214-20131214
    • 招待講演
  • [学会発表] レポート・ライティング指導と学習支援2013

    • 著者名/発表者名
      杉谷 祐美子
    • 学会等名
      私立大学図書館協会西地区部会2013年度東海地区協議会研究会
    • 発表場所
      名古屋芸術大学
    • 年月日
      20130708-20130708
    • 招待講演
  • [学会発表] Improving Academic Essays by Writing and Reading Peer Annotations on Source Documents2013

    • 著者名/発表者名
      SUZUKI Satoshi V., SUZUKI Hiroaki
    • 学会等名
      The 10th International Conference on Computer-Supported Collaborative Learning (CSCL 2013)
    • 発表場所
      Madison, WI, USA
    • 年月日
      20130618-20130618
  • [図書] 第6章 ライティング (大学教育:越境の説明をはぐくむ心理学)2014

    • 著者名/発表者名
      鈴木 宏昭 (富田 英司, 田島 充士 編)
    • 総ページ数
      15
    • 出版者
      ナカニシヤ出版

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公開日: 2015-05-28  

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