研究課題/領域番号 |
24501158
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
竹内 和広 大阪電気通信大学, 情報通信工学部, 准教授 (20440951)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 教授法開発 / カリキュラム / 情報システム教育 / 教材開発 / コミュニケーション能力 |
研究概要 |
本研究では大学教育でソフトウェア技術者を育成する際に、企業等のソフトウェア開発の場に学生を参加させることなく、教室での教育によってソフトウェア開発における基礎的コミュニケーション能力を錬成するための教材とその教育方法を研究することが目的である。具体的には、ソフトウェア開発の専門知識をコミュニケーションの場で運用するための方法論を明らかにすることにより、その方法に関わる知識を記述するとともに、その方法論を実現する会話例を会話・談話構造分析に基づいて作成する。この知識記述と会話例を教材として活用して、従来のロールプレイやグループディスカッション等のコミュニケーション型教育の実践方法、段階的教育方法、評価方法における弱点を改善し、基礎能力の演習方法や評価方法を理論的に検討することにより、より効果的な教育方法を体系的に整備する。 研究初年度の平成24年度は、以上の研究目的に従い、コンピュータシステム開発に従事してきた現場経験豊富な技術者にアンケート調査を行い、新入社員や経験の浅い技術者が現場活動において未修得で、かつ獲得が期待される能力について調査・分析を行った。また、現場経験の少ない大学生に現実に運用されている重要なシステム事例の知識を「事例カード」に整理するため、ソフトウェア工学における外国および国内の資料を広く収集し、業務の類型化を進める調査を行った。また、左記の調査に基づいて、5つの類型にシステム開発のトピックを整理した上で教室教材を作成し、実際にシステム作成を学ぶ少人数授業において学生に模擬開発会議を実践させる試みを実施した。左記の授業実験の結果、大学生のコミュニケーション能力の実際を把握することができ、次年度以降の教材作成の精緻化と拡張に対して有益な知見を得ることができ、研究計画をより具体的にすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の前提となる、企業による実習によって錬成が期待されてきた実践的能力を調査するため、15名のコンピュータシステム開発を経験してきた技術者に対してアンケート調査を実施し、システム開発において必要な能力について分析を行った。その結果、企業からシステム開発技術者に要求・期待されている能力には、確かに、コミュニケーション能力の諸要素能力があり、それがシステム開発の過程において重要な役割を持つことを確認した。さらにこの調査結果を教材作成につなげていく方針について、企業参加者の多い学会研究会において発表を行い、関連する研究者だけではなく、現場技術者からの意見も収集した。 以上の知見を踏まえて、実際に5つの類型に整理したシステム開発のトピックに関して教材を試作し、年度下半期には、その試作教材を使った授業実践を行った。具体的には、学生に一定のシステム開発知識を「事例カード」で提供し、会議談話の基本例を「会話例集」を通して提供した上で、模擬の開発会議を実践した。その結果、授業中の模擬会議での談話は、柔軟性に欠ける点が見受けられ、また、話題の掘り下げの度合いが低いものも存在することが確認され、大学生のコミュニケーション能力錬成について補強すべき課題を明らかにすることができた。このことから、より充実したシステム開発会議の教育のために、会話例の記法と記述を充実させることと同時に、それを使った教育方法の開発と工夫が課題であることを確認した。 以上のように、平成24年度は3年間の計画研究期間の基礎となる資料整備と、改良・改善の基礎となる教材を試作することができ、それを使った授業実践により研究課題の精緻化を行うことができた。このように研究の進捗はおおむね順調であると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に試作した「事例カード」と「会話例集」を活用した教育方法を、さらに実践的に研究する。また、その知見を教材の改善にフィードバックしていく方針である。具体的には、「事例カード」には国内外のシステム開発事例および専門資料を調査した上で、典型的と考えられるシステム開発のトピックを選定したが、現場技術者の意見を広く求めて、より汎用性があるものに収斂していきたいと考える。そのためには、より広いソフトウェア工学の視野から教材をとらえなおす事と、それに基づいてトピック数を慎重に増やしていくことを考えている。 また、現在の「会話例集」は、教材のために人工的に構造化した疑似談話であるが、それを単に例示するだけでは、コミュニケーション力の運用実践錬成に効率的・効果的につなげる点に課題があることが判明している。そのため、基礎的コミュニケーション能力錬成の各種教材との関連を意識して、例を参考に、学生が何を目的に談話を形成すべきか、何を達成すべきかをより明確にし、より教材として使いやすい記述形式に改編していく予定である。例えば、語学教材のように、教育の達成確認の方法や気づきの促しの方法などをより明確に設定した例の提示方法および解説方法を考えていきたい。また、会議例を自由発話によって置き換える力を錬成する演習方法も検討したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は調査と教材試作に注力したため、学会参加等の旅費使用が当初計画よりも少なくなった。次年度は試作した教材をより有効に活用するために学会等を活用して広く情報の収集・交換活動を行っていく予定であり、旅費の使用を計画する。また、調査活動も相補的に継続し、既に研究協力者として協力を得ているシステム開発技術者だけではなく、多様な経験をもつシステム開発技術者に対しての情報収集とそのデータを教材化に向けて整理するための謝金・人件費を使用する予定である。
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