研究課題/領域番号 |
24501162
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
篠田 有史 甲南大学, 情報教育研究センター, 講師 (30434913)
|
研究分担者 |
松本 茂樹 甲南大学, 知能情報学部, 教授 (50190525)
高橋 正 甲南大学, 知能情報学部, 教授 (30179494)
鳩貝 耕一 甲南大学, 情報教育研究センター, 教授 (60289014)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 教育工学 / 情報教育 / eラーニングシステム / 数学教育 |
研究概要 |
本研究は,講義に反映が容易な学生の「学びのスタイル」を提案することを最終目的とし,研究者全員で「学びのスタイル」を判定するアンケートの原案を作成した上で,3つの研究チームを編成して実施した. 実習形式の大学の情報基礎教育に取り組むチーム1では,講義を通じて2012年7月に1回目のアンケート調査を実施し,データのクリーニング前の段階で335名の回答を集めた.結果の一つとして,アンケート結果に対する主成分分析を通じ,「苦手意識があり,かつコンピュータの詳細な操作手順の説明を好む」という軸と,「大まかな操作の概要の説明を好み,文章での説明は好まない」という軸を見出すことができた.さらに,質問項目を更新した2回目のアンケート調査を2012年12月に実施し,59名分のデータを収集し,こちらについても分析を実施した. 講義形式の大学の数学教育に取り組むチーム2では,チーム1の分析結果を参考に,「手取り足取り型」,「プチ探検型」という2つの講義スタイルを提案し,2012年12月にトポロジーと一筆書きに関する模擬講義を行った.前半を「手取り足取り」,後半を「プチ探検」の講義スタイルとしたもの,前半・後半のスタイルを入れ替えたもの,計2回の模擬講義を実施し,それぞれ,27名と32名の受講があった.結果の一つとして,手取り足取り型を好むと回答する学生が多いが,理解度においてはプチ探検型が優れる可能性が示唆された. 提案手法を小中学校等の授業へ展開するチーム3では,学生の得意とする思考の情報を授業に役立てているとするシンガポールの初等教育について,NPO法人さんぴぃすに依頼して現地調査を実施した.ここでは,教員に新鮮味のある教示方法のニーズが存在している,といった面が確認され,日本においては,教員が自主的に活用できる枠組みの開発と,草の根的なネットーワークの整備が必要であるといった示唆が得られた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
チーム1については,情報基礎教育における,「学びのスタイル」を明らかにする,という点においては順調な進行に見えたが,2012年度12月に実施したより難易度の高い情報基礎科目におけるデータ収集では,想定とは異なった結果が得られた.2013年度以降の取り組みの方向性を確定させる上でも,「学びのスタイル」をより詳しく検討する必要が出ている.また,学生の理解度と「学びのスタイル」の関係をモデル化する取り組みでは,2012年度の取り組みでは十分な成果をあげることができず,非線形手法を含めたモデル作成手法の検討が必要と考える. チーム2については,おおむね順調である.ただし,学びのスタイルと講義スタイルとの関係の分析については時間の不足から不十分なものとなっているため,2013年度でさらに詳しく検討をした上で,次の取り組みに進む必要がある. チーム3については,当初の計画では,シンガポールでの調査結果をもって小中学校への働きかけを開始する予定であったものの,ヒアリングの結果,教員が,自身の評価を向上させるために新しい教示方法を導入することに対して積極的である,といった,日本には見られない関係が明らかになった.また,日本の教員に対して,研究内容を紹介する,といった働きかけを行ったところ,個人レベルでは興味をもってもらえるものの,多数の教員を対象とする教員研修を実施する程には本プロジェクトの研究成果が蓄積していない,という現状も明らかになった.このため,普及の手順として,まずは,本プロジェクトの取り組みを,教員個人に対する働きかけに方向を修正する必要がある.
|
今後の研究の推進方策 |
全チームを通じた検討としては,本研究での「学びのスタイル」の明確な定義を実施することが最重要の課題となる. チーム1については,2012年度と同様に,新しいデータ収集を実施するとともに,学びのスタイルを判別するための自動化を行うためのプログラム開発を実施する.これには,2012年度に導入したサーバコンピュータを活用する予定である. チーム2については,2012年度に収集した,学びのスタイルと講義スタイルとの関係の分析を継続して実施するとともに,新しい模擬講義を実施する予定である. チーム3については,2012年度の取り組みを通じて,当初計画していた早期からの教員実習といったスケールでの活動が難しいことが判明した.このため,働きかけの方向とスケールを変更し,まずは,提案手法について興味を持ってくれる教員に対する直接の働きかけを強化し,大学以外における,「学びのスタイル」を活用した教育活動の実現と,それを通じた事例の蓄積を目指す.また,他の組織との連携を加速するため,2012年度に導入したサーバコンピュータを活用し,情報交換のためのWebサイトを設営する.
|
次年度の研究費の使用計画 |
2012年度の成果は学外への発表がなく,研究費の使用計画に影響を与えた.研究成果の蓄積は順調に進んでおり,取り組みの結果を社会に還元しはじめる段階にあると考えられる.2013年度は学会活動等を通じて研究成果を発信するとともに,本プロジェクトの内容に関連する学会等で情報を収集し,研究活動を加速させる. チーム1については,システムやコンテンツの開発に補助が必要となった場合に,研究費を活用してアルバイトの支援を受ける計画である. チーム2については,2012年度と同様に,模擬講義型等の実施の際に研究費を活用する.アルバイト受講者を募ってデータ収集を実施する,といった内容を予定している. チーム3については,2012年度後半に予定していた小中学校への働きかけを実施しなかったことから,研究費の使用計画に大きな影響を与えた.2013年度にこれらの取り組みを実施し,また,研究計画に従い,教員研修的な取り組みにも着手する.ただし,2012年度の取り組みで明らかになったように,組織を対象とした研修は難しいことから,教員個々人を対象とした,自身の教育の再点検の指針として使用する,といった小規模な取り組みに注力し,実施回数を増やす方向で取り組む予定である.また,それらの取り組みを実現するための調査等にも研究費を活用する.
|