研究課題/領域番号 |
24501162
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
篠田 有史 甲南大学, 情報教育研究センター, 講師 (30434913)
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研究分担者 |
松本 茂樹 甲南大学, 知能情報学部, 教授 (50190525)
高橋 正 甲南大学, 知能情報学部, 教授 (30179494)
鳩貝 耕一 甲南大学, 情報教育研究センター, 教授 (60289014)
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キーワード | 教育工学 / 情報教育 / eラーニングシステム / 数学教育 |
研究概要 |
本研究は,2012年度に引き続き3つの研究チームにて研究の取り組みを実施した. 実習形式の大学の情報基礎教育に取り組むチーム1では,アンケート調査と分析を実施した.特に2013年7月には,基礎的なリテラシーを学ぶ講義課目にてアンケート調査を実施し,データのクリーニング前の段階で279名の回答を得た.このデータについて重回帰分析を用いて分析を行い,「学びのスタイル」アンケートの結果と,講義課目の理解度との関係について検討した.また,チーム1では,学びのスタイルを調査するためのWebシステムについて設計を行い,仕様書として纏めた. 講義形式の大学の数学教育に取り組むチーム2では,2012年度の取り組みにて提案した講義スタイルを発展させ,授業で作成するノートを含めた形でデザインを行った模擬講義を実施した.教示内容を逐次ノートに書き込みながら進行する「ノートテイキング型」,ワークシート上での試行を通じ,手を動かしながら発見的に学ぶ「試行錯誤型」,2種類の教示方策を提案してデータを収集した.ここでは,3回の模擬講義で合計57名の受講者を得て,好む教示タイプと理解度確認テストの結果等を組み合わせて考察を行った.さらにチーム2では,学習スタイルと指導法の適合性を明らかにするため,探求的な活動に焦点をあてた研究に着手した.本年度は,数式処理システムを用いた探求的な教材の開発を行いその教材に興味を持つ学習者の特性を考察した. 提案手法を小中学校等の授業へ展開する課題を扱うチーム3では,中学校や高等学校における本研究に関連する内容にニーズがあるかどうか,調査の機会探り,最終的に,兵庫県の公立高校の一校を訪問した.主要5教科の主任の教員に研究成果をまとめた発表を行い,意見交換を実施した.今回訪問した高校においては,科目によって傾向は異なるものの,「手取り足取り型」の教示のニーズが高いことが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究チームにおいては,2012年度の段階でのやや遅れているという認識のもと,2013年度の取り組みを実施した.従来は必要に応じて不定期に開催していた進捗報告を兼ねた研究会についても,2013年9月以降は,基本的に毎月の開催とし,研究のペースアップを図ることとした. チーム1については,2012年度に引き続き,情報基礎教育におけるアンケートによるデータ収集とその分析を実施した.分析結果からは,学習者の学び方と教員の教え方の関係が示唆されたものの,学習者のグループ分けの精度が不十分であると考えられる状況である.より分析精度を向上するためにも,アンケート項目の見直し等を進めることが必要である. チーム2については,2012年度に提案した「プチ探検型」「手取り足取り型」という教示スタイルの分類をベースに研究を継続中である.他方,それらの教示スタイルの明確な定義等が出来ていない状態である.そこで「プチ探検型」の学習スタイルをさらに発展させた学習スタイルとして,探求的な学習に着目し,取り組みの幅を広げることとした.研究全体の進捗としては,一時的に研究の進行が遅くなる可能性はあるものの,探求的な学習について興味をもち,学習を深める志向を明らかにすることは,手取り足取り型の学習」を好む学習者の特性を明らかにすることに繋がることが期待される. チーム3については,当初,研究成果のフィードバックとして複数回の教員研修等を実施する,という当初の計画ではあったものの,これまでの研究の進捗と成果を鑑み,本研究の興味を示してくれそうな教員に個別に働きかけ,ニーズの調査を行うという方針に切り替えた.いくつかの候補を挙げての打診を行ったが,最終的に,説明会の実施にこぎつけることが出来たのは公立高校1校に留まった.数名の教員から好意的な反応を得ることが出来たため,今後はヒアリング調査等を迅速に実施する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
全チームを通じた検討としては,本研究での「学びのスタイル」の明確な定義を実施することが最重要の課題となる. チーム1については,2年継続して収集したアンケート結果についての分析から,質問項目のさらなる見直し・絞込みの必要性があると考えられており,見直しに取り組む.具体的には,質問項目の有用性を再評価した上で,項目数の絞込みおよび更新を実施し,改良したアンケートを使ってデータ収集を実施する.また,チーム2とチーム3が対外的な動きを加速させているため,それに対応できるよう,学びのスタイルを判別するためオンラインシステムを構築する. チーム2については,2013年度まで続けてきた,模擬講義を通じた教示方法の検討を継続し,実証実験を通じてデータの蓄積を行う.また,新機軸として提案した探求的な学習についての取り組みも継続的に実施する.なお,この取り組みで対象にあげている数式処理システムの活用という主題は,当初から計画の中で可能であれば実施したい対象領域として組み込まれていたものである. チーム3については,2013年度の活動で得た方向性を軸に,具体的な行動を開始する予定である.最初の取り組みとして,教員に対するヒアリング調査を通じ,教員の教示スタイル等に関する知見を収集し,ニーズの把握に努める.ついで,チーム1とチーム2の活動の成果のフィードバックとして,高校にて学びのスタイルを組み込んだ活動に取り組む.なお,ここでは2013年度にコンタクトをとった公立高校を対象として想定しているが,他にも数校,働きかけを実施する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
特にチーム3について,研究開始時点の計画では,2012年度から教員に働きかけを実施し,2013年度には教員研修の実施,といった活動に踏み込む予定で計画を立案していた.これらは,「その他」の予算区分からの支出を想定していた.しかし,研究会での意見交換の結果,現状の本研究の成果を鑑みると,公的な「教員研修」といった,学校の組織に依頼を行ってトップダウンで実施する形態よりも,ボトムアップ的な方向性が好ましいとの結論を得た.具体的には,本研究の手法に興味を示してくれるような教員に個別に働きかけるというものである.この変更にともない,教員研修に関する部分の使用計画を先送りし,また縮小する方針とした. また,学会出張旅費として準備していた部分については,研究成果の発表が十分に実施できなかったこと,数少ない発表について旅費を別予算で工面したことにより,計画からずれが生じた. チーム1が担当している,オンラインで受講者のアンケートデータを収集する機能については,研究代表者の研究室に設置したWebサーバにて,学内情報環境からの接続に特化した形で学習マネジメントシステムMoodleを稼動させてデータ収集を実施してきた.しかし,チーム2とチーム3の活動の活発化を期待する上では,甲南大学の学内情報環境からの接続に特化したシステムでは使い勝手が悪い状況となっている.このため,当初から検討はされていた学外からの接続を意識したシステムについて,本格的に設計を見直し,機能を拡張させたものを構築する.この目的のため,学びのスタイルを判別するためオンラインシステムに関する予算の使用計画を大きく拡大する.また,チーム2は,探求的な学習に関する内容につい新たな取り組みを開始しており,こちらについても十分な活動が出来るよう,予算を配分する.
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