研究課題/領域番号 |
24501162
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
篠田 有史 甲南大学, 情報教育研究センター, 講師 (30434913)
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研究分担者 |
松本 茂樹 甲南大学, 知能情報学部, 教授 (50190525)
高橋 正 甲南大学, 知能情報学部, 教授 (30179494)
鳩貝 耕一 甲南大学, 情報教育研究センター, 教授 (60289014)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 教育工学 / eラーニングシステム / 数学教育 |
研究実績の概要 |
本研究は,2013年度に引き続き3つの研究チームにて研究の取り組みを実施した. 実習形式の大学の情報基礎教育に取り組むチーム1では,アンケートの見直しに着手した.学びのスタイルアンケートの調査では,不真面目な回答や整合性のない回答をする学習者が複数見られていた.回答の負荷を減らすため,50問からなる質問を減らすこととし,学びのスタイルに関連する質問に絞り込み,質問文も見直した.質問数を37問まで減らしたアンケートを用いて,2014年7月に調査を実施した(有効回答278名).この結果をもとに,質問数を29問まで減らして2014年10月に2回目の調査を実施した(有効回答122名).ここでは,不真面目な回答の比率が減少するとともに,得られる学習者像は従来と変わらないことが確認できた.また,チーム2で用いる数学版アンケートも作成した. 講義形式の大学の数学教育に取り組むチーム2では,学びのスタイルアンケートと理解状況の関連を調査するため,数学の確率に関する10の問題からなる模擬授業を実施した.36名のアルバイト受講者に対し,教示内容の理解度に関する自己評価を問題毎に回答してもらい,授業後の理解度確認テストを実施した.これらのデータと学びのスタイルを比較した結果,学びのスタイルアンケートの結果と,自己の理解度を把握できない学習者の間に関係があることが確認できた.また,学びのスタイルの知見を参考にした探求的な教材の開発を実施し,学習者の特性を考察した. 提案手法を小中学校等の授業へ展開する課題を扱うチーム3では,2013年度末に訪問した兵庫県の県立高校との連携を模索し,教員とのミーティングを実施した.チーム2で成果が上がった数学の学びのスタイルアンケートを用いて,2015年3月中旬にアンケート調査を実施した.ここでは,二つの学年の全生徒について,有効回答414名を得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2014年度については,2012年度の段階でのやや遅れているという認識のもと,2013年度に引き続いて取り組みを実施した. チーム1については,2013年度で問題となった,アンケート項目の見直しを集中的に実施した.この問題に注力した結果,アンケートの自動化等については取り組みが遅れ,後述するチーム3の高校での調査では,マークシートを用いた集計とすることとなった.また,研究の重点の調整にともない,アンケートに付随する,学習者の学びのスタイルを判別するシステム構築について進展させることができなかった. チーム2については,研究成果という観点からは順調であると考えられる.本年度の模擬授業では,継続して研究仮説としている,「プチ探検型」「手取り足取り型」という教示スタイルの分類を背景に,学習者のアンケートと学習状況を比較した.得られた結果は,研究仮説を裏付けるもので,特に模擬授業形式で実施する数学の授業については,アンケートに対応する学びのスタイルが明らかになっているものと考えられる.2013年度に着手した探求的な学習に秀でた学生の調査についても,教材作成の取り組みとこれに関する考察が順調に推移した. チーム3については,2012年度から累積して遅れが発生している状態である.本年度についても,当初の計画では,数学科の全教員にヒアリングをし,教示方略のパターンを検討した上で生徒のアンケート調査を実施する内容を予定していた.しかし,数学科の教員に予備ヒアリングを実施したところ,全ての数学科教員に展開する場合の協力体制の構築が難しく,思うような調査ができない懸念が発生した.そのため,計画を変更し,チーム1と2にて数学アンケートの完成を急ぐこととした.最終的に年度末にアンケートを実施し,多数のデータを収集した.
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今後の研究の推進方策 |
2014年度はチーム1の取り組みでアンケートの見直しを重点的に実施し,昨年度までのバージョンから大きく改善がなされたと考えられる.このアンケートをベースに行ったチーム2の模擬授業の分析もおおむね順調であり,「プチ探検型」「手取り足取り型」という切り口で学びのスタイルの取り組みをまとめる下準備が整ったことが期待される. チーム1については,アンケートの見直しは実施せず,情報基礎教育科目におけるアンケート実施とデータ分析に注力する.特に,学習者の分類については,重回帰分析をはじめとする線形手法による分析を実施してきたが,来年度は機械学習も取り入れ,アンケートと学習者のスタイルを結ぶルールの探索に注力する.得られたルールを実装した,学びのスタイルを判別するためオンラインシステムの構築にも取り組む. チーム2については,2014年度まで続けてきた,模擬講義を通じた教示方法の検討を継続し,実証実験を通じてデータの蓄積を行う.また,これまでの取り組みで改善したアンケートを用い,探求的な学習に秀でた学習者のデータ収集を実施し,学びのスタイルと教示方法の関係をさらに深く検討する. チーム3については,2014年度末に収集したデータを分析した上で高校を訪問し,教員に対してフィードバックを行う研究会を実施する予定である.数学科との円滑な協力体制の構築ができる場合には,ヒアリング調査等に取り組む予定である.また,数学科との連携状況に関わらず,学びのスタイルと高校側の有するデータを比較しながら,チーム2の取り組みで明らかになった学びのスタイルが,高校においてはどのような状態にあるかを検討する.加えて,今回取り組みを行っている県立高校以外にも協力をいただけそうな中学校・高等学校とコンタクトを取り,学びのスタイルの取り組み範囲を広げる.
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年度は,アンケートの見直しの実施に大きく時間を取られたことにより,チーム1の実施するオンラインシステムの構築に大きな遅れが生じた.また元々の遅れがあったチーム3についても遅れが累積している状態である.特にチーム3については,研究開始時点の計画では,2012年度から教員に働きかけを実施し,2013年度には教員研修の実施,といった活動に踏み込む予定で計画を立案していた.しかし,研究会での意見交換の結果,現状の本研究の成果を鑑みると,本研究の手法に興味を示してくれるような教員に個別に働きかける方針が現実的であると判断した.この変更にともない,教員研修に関する部分の使用計画を先送りし,また縮小する方針とした.また,学会出張旅費として準備していた部分については,研究成果の発表が十分に実施できなかったこと,数少ない発表について旅費を別予算で工面したことにより,計画からずれが生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度は,学会活動等を通じて研究成果を発信するとともに,本プロジェクトの内容に関連する学会等で情報を収集し,研究活動を加速させる.チーム1については,計画に従い,オンラインで受講者のアンケートデータを収集する機能について実装を行い,学びのスタイル判別システムを構築する予定である.これが最も大きな支出項目となる予定である.チーム2については,模擬講義型等の実施の際に研究費を活用する.チーム2は継続的に成果を挙げており,この取り組みの基本方針を踏襲し,アルバイト受講者を募ってデータ収集を実施する内容を予定している.チーム3については,研究期間中盤以降,興味をもっていただける教員に働きかけるというボトムアップ方式で研究に取り組んでおり,2015年度についても,同様の戦略で取り組みを実施する予定である.実現のための調査等にも研究費を活用する.
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