研究課題/領域番号 |
24501163
|
研究機関 | 広島工業大学 |
研究代表者 |
鈴木 貴 広島工業大学, 工学部, 准教授 (40289260)
|
研究分担者 |
荒木 智行 広島工業大学, 工学部, 准教授 (20257413)
|
キーワード | 力覚デバイス / 視覚障碍者 / 科学学習支援 / 理科教育支援 / 数学教育支援 |
研究概要 |
昨年度の研究では,本研究で構築する科学学習支援システムに組み込む触知モデルのサンプルを試作し,実験によって問題点を明らかにした。平成25年度は,それらの問題点の改善策を考察し,より効果的に触知でき,科学の理解を促進できるような触知モデルに改良することを目標とした。さらに,システムにコンテンツとして組み込む触知モデル数を増やし,さまざまな数学的,物理的な事象を体験できるようにすることであった。 まず,曲面の形状を認識させる触知モデルとして,昨年度に作成した球面モデルに加え,今年度は,トーラス型曲面の触知モデルを完成させた。放物面のような,2変数関数によって与えられる曲面のモデルの作成は途中段階である。また,昨年度に行った実験で明らかになった曲面型触知モデルの大きな問題点,すなわち,視覚障碍者にはスタイラスが触れている曲面の位置が認識しづらいという事実を,どのように克服すればよいのかという改善策を検討した。さらに,平面グラフの触知モデルの改善点は,グラフ曲線と座標軸との位置関係を認識しやすくすることであったが,その方策を検討するために何人かの視覚障碍者に意見を聞いた。その結果,音を利用することが効果的であることがわかり,具体的にプログラム開発を行い,ほぼ完成させた。 物理的な事象,つまり動きのある現象の触知モデルは,視覚障碍者の科学学習には必須であり,本システムの最も主要なコンテンツとして提供するべきであると考えている。本年度は,触知させる力学的な事象の数を増やすことを目標として開発を行い,惑星の公転運動のプログラム,振り子やばねによる振動運動の触知モデルを作成した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は計画通りに遂行できている。申請時の研究計画では,平成25年度までに動的な触知モデルの基盤を築くことであったが,そこまでは達成できた。事実,最終年度(平成26年度)の予定であった,数学と物理に関する触知モデルのコンテンツを充実させることについても,平成25年度に一部着手することができている。しかし,曲面型の触知モデルの構築については,曲面を効果的に認識させることの豊作は検討できているが,具体的なプログラム作成には,予想以上の技術的な難しさがあることがわかり,球面とトーラス以外の曲面は実現できていない。 また,動的な物理的事象のうち,典型的な力学現象のほとんどの触知モデルは完成した。それらの触知モデルでは,それぞれの力学現象における物体の運動と軌道を触知し,仮想体験させることができるようになった。しかし,それぞれの現象の背後にある物理を理解させる機能をプログラムに組み込むことを計画しているが,その方法については現時点で検討段階である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度は本研究の最終年度であり,本システムの主要な部分を完成させたい。具体的には,以下のとおりである。曲面型触知モデルでは,2変数関数が表す曲面を作成し,それを効果的に触知させる機能を実現させたい。1変数関数曲線型の触知モデルでは,音を利用できるようにしたい。動的な現象の触知モデルでは,物体に作用している力や速度,加速度など,高等教育での物理の内容を学べるようにしたい。また,平成25年度には実現できなかった実験,とくに,視覚障碍をもつ小中学生や高校生を被験者としておこない,それぞれの段階に応じた問題点や機能拡張をするべき点を明らかにしなければならないと考えている。 さらに,視覚障碍児童の教育に実際に携わってきた研究者との議論の中で,本システムの有用な用途について指摘を受けた。それは,視覚障碍者には経験することが難しい「遠近感」を,本システムでは経験させることが可能なのではないかということである。そこで,「遠近感」を触知させる方法を検討し,具体的な触知モデルを作成することも考えている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
予定していた「科学へジャンプへの参加」が,都合により実現できなかったため,その経費である15万円ほどが残ってしまった。 曲面型の触知モデルを完成させるためには,ソフトウェアの技術的な困難があることがわかった。そこで,OpenGLとOpenHapticsに熟達している研究者2名に,協力を得たいと考えている。そのために,2回の研究打ち合わせを予定しているが,旅費と謝礼金として,20万円を予定している。また,多くの視覚障碍者たちに被験者になってもらい,本システムの実験を行いたい。その経費として20万円を計画している。 さらに,本システムをより効果的にするためには,もう一台の力覚デバイスが必要である。その購入費として20万円,および接続用のパソコン1台の購入費として15万円を予定している。最終年度としての研究発表(学会,論文)のための経費として,30万円を執行したい。
|