研究課題
本研究の目的は,理数系科目を習得する過程で不可欠な「自然界のさまざまな事象のイメージ」を,視覚障碍を持つ学生に触覚を通して創成させる支援システムを構築することである.その方法として本研究では,「力覚デバイス」と呼ばれる,コンピュータ内部に実現された3次元仮想現実を力覚によって知覚することができる装置を用いた.実施した具体的な内容は,高校レベルの初等数学や物理学で扱われるさまざまな図形や物理現象の仮想現実を力覚デバイスで触知させるプログラム(以下,触知モデル)の作成である.平成24年度は本システムの有効性を確認するために,「平面図形型」,「立体図形型」および「動的な現象」の触知モデルを作成して視覚障碍の大学生数名に試行してもらった.その結果,本システムはとくに物体の動きなど,物理的現象の触知には大変効果的であることが確認された.そこで平成25年度以降は物理現象の触知モデルの数を増やすことと,試行実験で指摘された問題点の改善を中心に研究を行った.最終年度(平成26年度)は,視覚障碍者にとって最も重要な機能である「音(声)」を触知モデルに組み込む作業を行った.たとえば,惑星の公転運動では太陽からの距離に応じて惑星の速さが変化する.力覚デバイスでは速さの変化は触知できても,太陽までの距離をリアルタイムに知覚させることはできない.そこで,音の高低を使って距離を表現させた.その他の多くの触知モデルについても音や音声の機能を組み込んで,視覚障碍学生の理解が深まるように工夫した. 完成した触知モデルをより多くの視覚障碍学生に実験してもらわなければならないなど,多少の課題を残しているが,本研究は予定通り遂行できたと言える.本システムによって,視覚障碍学生が自然界の事象のイメージを築くことができれば,理科系科目の理解が促進され,興味を深めることができるようになると期待している.
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
日本知能情報ファジー学会誌,特集号(知能と情報)
巻: vol.26, No.2 ページ: 581 ~ 592