研究課題/領域番号 |
24501178
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
藤井 規孝 新潟大学, 医歯学総合病院, 教授 (90313527)
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研究分担者 |
奥村 暢旦 新潟大学, 医歯学総合病院, 助教 (90547605)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 歯科臨床 / 技術教育 / 動画教材 |
研究概要 |
現代の医療では、医療人としてのプロフェッショナリズムや資質が重要視され、これらを備えた医療従事者こそ全人的医療を実践できるという意見に反対する声はみられない。しかし、口腔という多機能器官を管理する歯科医師にとって、治療技術はもっとも重要な要素の一つであることに変わりはない。近年、卒直後の歯科医師の治療に関する技術力の低下が問題視されるようになっており、この問題を解決するために、平成22年度に文部科学省によって歯科医学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂が行われ、「臨床実習」の項目が新規設定された。これ以降、国内の歯学部や歯科大学においては診療参加型のクリニカルクラークシップ(学生のうちから臨床の現場を体験するだけではなく、実際に患者の治療を行うことができるような教育体制・環境を整備すること)の充実化が図られている。一方、厚生労働省によって平成18年度から必修化された歯科医師の臨床研修は二度目の制度見直しをひかえ、診療参加型臨床実習との有機的な結びつきを図ろうとしている。これらはいずれも、高齢化や患者ニーズの多様化など複雑な社会背景を抱える現代においても、豊かな人間性に加え、確実な治療技術を備えた優れた歯科医師を育成することが喫緊の仮題であることの現れであると理解することができる。すなわち、学生や研修歯科医が限られた時間の中で効率的かつ効果的に治療技術を習得するための工夫が必要不可欠であることはいうまでもない。本研究は、歯科治療においても口頭や文章では説明が困難であるため、従来、学習者自身の慣れや経験に頼るしかなかった技術領域の習得をサポートするとともに、主に主観的に行われることの多かったそれらの評価を客観的に行うための方法を確立し、歯科臨床教育に大きく貢献することを目的として行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度に当たる平成24年度は、説明が困難な技術領域を映像によって伝えることを目的とし、最も代表的かつ職人的な技術が要求される歯科治療の一つである全部鋳造冠(クラウン)の支台歯形成を題材として、1)効果的な動画教材の試作、2)試作した動画教材のテストを行った。 1) 動画教材の試作 マネキンと小型・軽量のビデオカメラを用いて高画質の視覚教材を作成した。学生や研修歯科医が支台歯形成の技術を習得するための効果的な教材にするために、術者(歯科医師)の視界を収めることのできるように位置を模索し、術者の手や歯を切削する器機の動きがはっきりと映るようにカメラの条件設定を行った。 2) 試作した教材のテスト 被験者を研修歯科医とし、マネキンに装着した人工歯の支台歯形成を対象に行った。編集した動画をタブレットPCで閲覧可能なファイルに変換し、動画教材を閲覧してからあるいはしながら支台歯形成を行った場合とテキスト教材を見ながら行った場合について、それぞれの支台歯を収集し、評価を行った。支台歯の評価には経験者の主観的な評価に加え、クラウンの維持に直接関係する軸面テーパーを項目に含める方法(支台歯は上面をより面積の小さな円とする円柱に模式化することができるため、上部と下部の円の面積比を比較することによって軸面テーパー:傾き具合を求める方法)を用いて客観的な評価を行った。 テストの結果、今年度試作した動画教材はテキストを用いた従来の講義形式による指導に比べて、フィンガーレストの位置や治療時のポジショニング、視線の動かし方などを術者の視点で確認することができるため、より効果的に治療技術の学習教材となり得ることがわかった。また、タブレットPCでの動画閲覧は、自分にとって必要な時に必要な場面をいつでも術者の視野でみることができるため、非常に使いやすく且つわかりやすい優れた教材となり得ることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
次年度に計画最終年度を迎える平成25年度は、前年度に引き続きマネキンと人工歯を使って支台歯形成に関する動画教材の改良を図り、さらに高い効果を得られるものにすることを試みる。これと並行して評価方法についても客観性を高めるために、改良点の有無をチェックする。その後、研修歯科医を被験者として支台歯形成に関するデータを集め、平成24年度分のデータと合わせてこの動画教材の効果を検証する。 続いて、同様の手法を用いて支台歯形成後の印象採得についても動画教材の作成を試みる。支台歯の印象採得は歯と歯茎の間に糸を挿入して一時的に隙間を広げ(歯肉圧排を行い)、この糸を撤去した後、直ちに経時的に硬化するシリコン系の材料を流し込むものである。この処置は、患者の口腔内で使用される補綴装置を製作するための模型を作るために重要な処置であると同時に、材料の特性を理解しながら短時間に効率よく処置を進める必要があるため、術者には極めて繊細な技術が要求される。印象採得時の印象材の流れ方を口頭で説明することは非常に困難であり、現場で見学する場合にも、狭小な口腔内で行われるため見学者の人数には大きな制限がつきまとう。術者の視界を捉えて作成するこの動画教材が完成すれば、経験者(熟練した歯科医師)が感覚によって行っている手技を経験の浅い被験者(研修歯科医、学生)にわかりやすく、かつ繰り返して見ることが可能な資料として提示することができる。また、印象採得後の結果を画像的に解析し、支台歯の形成限界(支台歯のマージン)の連続性を検証することによって、被験者の技術評価を行うことを試みる。平成25年度は、支台歯形成、印象採得に関する上記実験を行い、処置後の結果を客観的に評価する方法を確立することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度も実験の遂行、評価および改良と並行して情報収集活動を行う。動画教材の完成度をさらに高め、効果的にするために、必要に応じて動画編集を行うことができる資源を準備する。また、多くのデータを収集するために、模型や人工歯、ハンドピースなどの材料を充実させ、動画教材の視聴に必要なAV関連器機も用意して被験者数の増加を図る。特に印象採得に関する実験については、支台歯形成、歯肉圧排後の状態を再現した模型の試作から行う必要があるため、実験開始前に、より実際の口腔内に近似させるために幾つかのトライアルを行い、改良を重ねる予定である。実験用の模型が完成したら、臨床において歯肉圧排時に使用する圧排器や圧排糸なども揃え、実験に際しては印象採得前の準備に相当する処置をも再現できるようにする。すなわち、できるだけ治療現場をシミュレートするための環境や材料の整備を行う。 情報収集活動については、主に本研究が対象としている処置に深く関係する日本補綴歯科学会学術大会(5月、福岡)、歯学教育全般を対象として開催される日本歯科医学教育学会(7月、北海道)に参加し、新たな見識や本研究の熟成に必要なヒントを得る。さらに上記以外にも、有益な情報を得ることができそうな学術大会、セミナー等には積極的に参加することを予定している。 研究最終年度となる次年度には、研究の総括や学術大会(種類は未定)での成果発表を行うことを予定しているため、必要があればこのための準備にも平成25年度の研究費を使用する予定である。
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