研究課題/領域番号 |
24501178
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
藤井 規孝 新潟大学, 医歯学総合病院, 教授 (90313527)
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研究分担者 |
奥村 暢旦 新潟大学, 医歯学総合病院, 助教 (90547605)
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キーワード | 歯科臨床 / 技術教育 / 動画教材 |
研究概要 |
平成24年度には、歯科治療において最も基本的且つ高頻度に行われる支台歯形成を題材に術者視線で手技域を記録した動画教材を作成し、その効果を検証した。その結果、テキストやスライドなど従来の媒体では伝えることが難しかった治療のポイントを効果的に教えることができることが示され、学習者がデモンストレーションを行っている術者と自分の違いを自ら発見、解決するための教育ツールとして高い効果が得られることがわかった。そこで平成25年度には、支台歯形成同様、高頻度治療の代表格に相当する印象採得を題材として術者視線の動画教材を作成し、本教材の教育効果の確認を行った。齲蝕等歯に発生した疾患の治療や大きく崩壊した歯の形を回復するためには、歯を切削して形を整えた後、型を取って模型を作り、欠損部を修復するための金属やセラミックパーツを製作して当該歯に装着する治療を行う。補綴装置と呼ばれるこれらの回復パーツの精度はそれらを製作する模型、すなわち型の精度に大きく左右される。印象採得は、削った歯の型をとる処置であり、常に唾液などの各種滲出液に晒されている口腔内においては、正確に印象採得を行うことは容易ではない。さらに、印象採得は数十秒から数分で硬化する弾性材料を用いて行うため、術者には粘弾性材料の初期硬化タイミングやチクソトロピ―に関する理解が求められる。いわば比較的短時間に変化する環境において、最適な瞬間を切り取る行為ともいえる印象採得の技術に関するポイントは、従来の教育媒体では非常に説明が困難であり、教育者にとって効果的な教育方法の開発が待ち望まれているものであった。 今年度は、昨年度作成した術者視点で治療域を録画する動画が、この課題を解決するための有効なツールになりうることを検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に試作した小型カメラを用いて術者(歯科医師)の視線を中心に手技域を録画することができるシステムにさらに改良を加え、印象採得に関する動画教材を作成した。印象の対象として、全部鋳造冠の支台歯形成を行った人工歯を取り付けた顎模型と狭小な口腔内を再現するパーツである人工頬粘膜を装着したマネキンを用意し、仮想患者として実験を行った。 指導歯科医が行った印象採得の手技を録画したデータを動画ファイルとしてチェアーサイドにおいても簡単に再生することができる小型端末に保存し、被験者には1) ポイントを口頭で説明した後に、2) 小型端末に保存した動画を閲覧した後に、の2回ずつ印象採得を行わせた。被験者は平成25年度に新潟大学医歯学総合病院歯科単独型歯科医師臨床研修プログラムにおいて臨床研修を行った研修歯科医24名とした。 歯質の切削部と非切削部の協会は形成限界と呼ばれ、当該歯に装着される補綴装置の辺縁部はこの形成限界に一致するように製作される。すなわち、口腔内から撤去した印象材料の内面に明確に形成限界が表されていることが印象採得の成否を判断材料となる。全部鋳造冠を装着するための支台歯形成が理想的に行われた場合、形成限界は一本の連続した線で「円」を描き、印象材の内面に明瞭な「円」を確認することができれば正確に印象採得を行うことができたことがわかる。 今回、動画教材の効果を評価するために、被験者が行った印象採得において印象材の内面に完全な「円」を確認できた場合を100として、それぞれの「円」の再現率を算出した。その結果、1)に比べて2)の方が形成限界の再現率が高く、特に再現率を低下させる要因の一つである気泡の混入頻度が有意に少なかったため、本教材には一定の教育効果が認められることがわかった。 また、前年度行った支台歯形成に関する動画教材の実験も同様に行い、サンプル数の増加を図った。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度にあたる平成26年度には、支台歯形成および印象採得の実験を同様に行い、さらにサンプル数を増やして動画教材の効果を確認すると共に可能であれば実際の患者に対して行う治療を録画してより臨床に役立つ教材の作成を試みる。材料自体の特性や術者の指の動きなど、治療に関する器具や材料の取り扱い、基本的な動作についてはマネキンを仮想患者として学習する方が効率がよいと思われる。実際の臨床現場では患者に対して処置を行うため、術者による力のかけ具合や唾液に対する注意が要求される。これらは基本的治療技術を習得した後に、次のステップとして歯科医師に求められるものであり、患者を相手とする診療室においては人への配慮も含めたスキルが必要となる。正常なヒトの口腔内は絶えず唾液が存在する湿潤した環境であり、それが健康であることの証明でもある。一方、歯科治療に用いられる様々な材料には防湿された環境において最大の性能を発揮するものが多い。このため、確実な歯科治療を行うためには、必要なときに必要なだけ必要な部位を局所的に防湿することが欠かせない。いわば患者に余計な苦痛を与えないために、適切に唾液を排除し、治療部位を防湿することも歯科医師に求められる治療技術の一つに相当する。この防湿操作に関しては、マネキンでは再現することができないため、マネキンで基本技術を習得した後に、次のステップとして実際の患者を対象とした術者視線の動画教材を作成することができれば、これまで口頭や文章では伝えることが非常に困難であった歯科治療技術のコツを効果的に教育することが可能となる。以上の実験を遂行し、本研究の目的を達成する。
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