研究課題/領域番号 |
24501198
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
高木 昇 富山県立大学, 工学部, 准教授 (50236197)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 触図 / 視覚障害者支援システム / 知識処理 / パターン認識 / 図形認識 / 画像処理 |
研究概要 |
本研究課題では,手書き図形認識技術を開発し,触図作成支援システムを開発することである.触図とは,紙などの表面に凹凸を付けることで触って理解できる図のことである.触図の利用は,視覚障害者が図を理解する上で重要な手段であり,数学や物理の学習では必須である.墨字の自動点訳に比べ図の触図自動翻訳は困難で,現状では人が作図ソフトで原稿を作成し,特殊な用紙に複写,加熱膨張させて触図を作る.一方,触図は触察可能な程度に単純化されるので,手書きした原稿を触図向きに自動整形する手法を開発すれば,現状の原稿作成を効率化できると考えられる.そこで,本研究課題では目的を次の2点に設定している:1.触図用の手書き図形認識技術を開発し,2.図形原稿から自動的な触図作成を支援するシステムを開発する. まず,平成24年度では,図形を地図に限定し,地図認識技術を検討した.紙と鉛筆により人手で作図た地図は線図形として表現されることを前提としている.また,手書き地図には,ランドマークとなる建物等を説明するためのタグとして英語のアルファベットが混在することを認めている.紙に描かれた手書き地図をイメージスキャナでビットマップ(BMP)画像へ変換し,その後BMP画像について次の一連の処理を実行するプログラムを開発した:1.文字成分と図形成分の分離,2.交点・角検出による図形成分の基本要素抽出,3.基本パターン識別,4.手書きのアルファベット認識,5.触図原稿データの作成.開発したシステムの図形認識率は約93%,手書きアルファベットの認識率は約95%であった. 上記の研究成果は,3つの国際会議と3つの国内会議において,合計8件の研究発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題を内容で大別すると次の3項目が挙げられる:(1)手書き図形認識技術の開発,(2)グラフィカル・ユーザ・インタフェースの開発,(3)システムのユーザビリティ評価.申請当初の計画では,平成24年度には,手書き図形認識技術の開発を実施することになっている.図形を手書き地図に限定したものの,研究実績の概要にも述べた通り,当初の計画の通りの研究成果を概ね達成できたと判断している.但し,次に示す2項目は平成24年度の研究で顕在化した今後の課題である. 1.平成24年度では,手書き地図に限定した図形認識技術を開発した.平成25年度からは,手書き地図に限定することなく,当初の計画通り,物理や化学で使用される図などより一般的な図形を対象とした認識技術の開発する.触図作成支援システム開発を始めるにあたっての一つの動機付けは,視覚障害児・生徒が理系科目を学習する際,容易に触図を利用できる環境整備をすることである.このため,平成25年度には,物理や化学の教科書に掲載される図を主な対象としたパターン認識技術の開発を検討する. 2.開発したシステムの図形認識率は約93%,アルファベット認識率は約95%であった.ユーザビリティ評価を待たなければどの程度の認識率が妥当であるかは明言できない.しかしながら,現状では認識率の向上は今後検討すべき課題と認識している.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度には,以下に述べる3つの研究課題に取り組む. 1.認識対象となる図形を平成24年度では手書き地図に限定していたが,より一般的な手書き地図を認識対象とする.我々は,数学グラフの認識技術の開発とその触図自動翻訳システムへの応用を研究してきた.一連の触図作成支援システム開発の動機付けの一つとして,視覚障害児・生徒が理系科目を学習する際,容易に触図を利用できる環境整備に寄与することが挙げられる.したがって,今後は物理や化学の教科書で利用される図を主な対象に,それらの手書き図形認識技術の開発を進める. 2.平成24年度における図形認識率は約93%,アルファベット認識率は約95%であった.これら認識率の向上を目指す.現在のところ,認識率改善に向けての具体的方策はないが,誤認識パターンを解析するなどして認識率改善を目指す. 3.現在,紙と鉛筆で作図された地図は,イメージスキャナを用いてビットマップ画像へ変換している.近年では,デジタルカメラが普及しているため,デジタルカメラで撮影したビットマップ画像を処理対象として検討する.触図作成支援システムの利用場所の一つとして盲学校が考えられる.例えば,富山県内の盲学校(視覚障害者特別支援学校)にはイメージスキャナは設置されていない.視覚障害児・生徒の教育現場のインフラ環境を顧みると,デジタルカメラで撮影した画像から触図を作成する方が現実的であると考える.研究開始当初はイメージスキャナの利用を前提としていたが,今後はデジタルカメラから手書き図形の電子ファイルを取得することも視野入れて検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度には,研究成果を2つの国際会議(IEEE International Conference on Systems, Man, and CyberneticsとThe 14th International Symposium on Advanced Intelligent Systems),および2つの国内会議(電子情報通信学会福祉情報工学研究会,日本知能情報ファジィ学会ファジィシステムシンポジウム)で発表する予定である.国内外の会議への出張旅費として約80万円を計上する. 現在,平成24年度の研究成果を2件の論文として原稿を執筆中で,近日中に投稿予定である.これら論文が採録された場合の論文別刷代として約20万円を計上する. 平成25年度後半,あるいは平成26年度に開発したシステムのユーザビリティ評価を実施する.触作成方法は2つの主流な方法がある.一つは,特殊な化学薬品を塗布した用紙に図を複写し,印刷部分を加熱膨張させることで触図を作成する方法である.この触図を一般に立体コピーと呼ぶ.もう一つは,プロッタ機能付の点字プリンタを利用して点図として触図を作成する方法である.開発中のシステムでは,これら2種類の触図での出力が可能である.手書き地図を認識し,整形して立体コピー用紙に複写し触図を作成するか,整形した図形を点字プリンタで点図として出力する.ユーザビリティ評価は,触図作成者の視点から触図を作成し易いか否かの評価と,視覚障害者の視点から触図が触察し易いか否かの評価の2種類が考えられる.プロッタ機能付点字プリンタは既に現有備品として所有しているが,立体コピーを作成するための機器は所有していない.このため,平成25年度に立体コピー作成機器の購入として40万円を計上する. 以上の研究費項目の他,講師謝金等に20万円を計上する.
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