研究課題/領域番号 |
24501198
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
高木 昇 富山県立大学, 工学部, 准教授 (50236197)
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キーワード | 福祉情報工学 / 視覚障害者 / 触図 / コンピュータ支援システム / パターン認識 / 手書き図形認識 |
研究概要 |
平成24年度の研究実績を踏まえて,平成25年度の研究の推進方策では,次の3項目に取り組むこと計画した:(1)物理や化学の手書き図形認識技術の開発,(2)アルファベット文字認識手法の精度改善,(3)デジタルカメラで撮影した画像の処理方法の検討.平成25年度には,(1)と(3)の課題に取り組みことができ,以下に述べる研究成果を挙げた.平成25年度には上記課題(2)は実施できなかった.これは主に,上記の課題(2)より課題(1)図形認識技術の開発が優先されると判断したこと,及び課題(1)の図形認識技術の開発が当初の予定より時間を要したことによる. 物理の教科書で使用される図を対象として図形認識技術を検討した.開発した図形認識技術は,これまで我々が培ってきた研究成果を基礎にしている.認識手法の概要は次の通りである:(1)前処理(数学的モルフォロジーを用いたノイズ除去,細線化など),(2)交点・屈折点の特徴点検出,(3)特徴点削除による基本図形分解,(3)基本図形判別,(4)基本図形整形,(4)エーデル・ファイル変換とSVGファイル変換.デジタルカメラで撮影した画像は,照明変化に起因するノイズが非常に多い.ここでは,前処理に数学的モルフォロジーを適用することにより照明変化に起因するノイズの低減を実現し,デジタルカメラの使用を可能にした. 簡単なユーザビリティ評価実験を行った.晴眼者5名を対象にして,次の3つの課題を実施しアンケート調査により提案手法の有効性を検証した:(1)手書きの電気回路図を我々のシステムでエーデル・ファイルとSVGファイルに変換する課題,(2)エーデルを使用して電気回路図を作図する課題,(3)Microsoft PowerPointを使用して電気回路図を作図する課題.統計的検定の結果,我々の手法と他の2つの手法には作図の容易さについて有意な差があった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の内容を大別すると次の3項目が挙げられる:(1)手書き図形認識技術の開発,(2)グラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI)の開発,(3)システムのユーザビリティ評価.申請書作成時の計画では,平成24年度に(1),平成25年度に(2),平成26年度に(3)を実施する予定であった.平成25年度は,平成24年度に引き続き(1)の手書き図形認識技術の開発,および(3)のシステムのユーザビリティ評価を行った.(3)のユーザビリティ評価を(2)のGUI開発より先行させた理由としては,本研究課題で提案する手書きによる触図原稿作成が従来手法(エーデルやMicrosoft PowerPointのような作図ソフトによる作成)と比較して容易であることを示すことが重要であると考えたためである.平成25年度までに上記課題(1)と(3)を,細かい修正課題はあるものの終了できているので,現在までの達成度は概ね順調に進展しているといえる. (1)の手書き図形認識技術の開発では,これまでに我々が培ってきた研究成果を基礎に物理の教科書で使用される図を対象とした手法を検討した.手書きの電気回路図などを対象にして認識技術を開発した.更に,晴眼者5名を被験者とした簡単なシステムのユーザビリティ評価実験を行った.被験者は,手書きの電気回路図を紙と鉛筆で作図し,イメージスキャナでビットマップ画像に変換した後,我々の開発したシステムでエーデル・ファイルとSVGファイルに自動変換する課題を行った.比較対象として,被験者は同じ電気回路図をエーデルとMicrosoft PowerPointで作図した.アンケート調査結果によると,我々の手法は従来手法と比較して有意な差が認められた.すなわち,本研究課題の動機付けとなっている手書きによる触図原稿作成の有効性が示されていると考える.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は最終年度であり,したがって残りの研究課題に取り組む. まず,グラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI)の開発を行う.手書き図形の認識技術は100%の認識精度を確立することは困難である.このため,誤認識結果があることを前提として編集可能なGUIの開発を検討する. 触図には簡単な説明文を挿入することが求められる.説明文の挿入により描かれている図を想像しながら触察可能となり,図の理解が容易となる.図形認識システムでは手書きアルファベットを許容し,説明文を付与したい記号のタグとして使用する.説明文そのものは,原稿作成者が別途テキストファイルとして作成し,これを点字翻訳する.本研究課題で開発した手書きアルファベット文字の認識システムの精度は約95%であった(平成24年度に実施済).この認識精度を改善する.アルファベット文字認識システムはサポート・ベクター・マシン(SVM)を使用して実現しているが,SVM学習のためのサンプルは5名の筆記者のみから得ている.筆記者数を増やすことで認識率が改善できると考える. 平成25年度には簡単なユーザビリティ評価実験を行った.平成26年度には,アンケートの質問項目を増やす,被験者数を増やすなどの対処により,より精度の高いユーザビリティ評価実験を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
申請書作成時では,平成25年度に設備備品として立体コピー作成機(ケージエス社製ピアフ)として30万円を計上していた.しかし,本学所属の教員が別の研究課題で,購入予定の立体コピー作成機と同機種を購入していたため,導入済の機器を使用して研究を実施した.また,中国遼寧省の大連交通大学から畢衛星教授などを本研究課題に関連した研究打ち合わせのため本学に招聘し,彼らの旅費を補助するなど当初計画にない支出が増えた.これらを相殺した結果約6万円の繰越金が発生した. 次年度への繰越金は論文別刷代として使用する.申請書作成時には,平成26年度には1件の論文別刷代を計上していた.これは当該年度に1件の論文投稿を予定していたことによる.しかし,平成26年度には既に1件の論文を投稿済であり,現在更にもう1件の論文投稿の準備をしている.このため,繰越金を加えて平成26年度には2件の論文別刷代を計上する.
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