最終年度には,次の2つの研究を実施した:(1)開発したシステムの詳細なユーザビリティ評価,(2)グラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI)の開発.GUIは,ユーザビリティ評価実験を実施するための必要最小限の機能を備えたものとした.ユーザビリティ評価は,5名の被験者による主観評価を中心に実施した.被験者は健常な大学生でコンピュータ操作には慣れていた.比較対象システムとして,PowerPoint(PPT)およびEdelの作図ソフトを選択した.PPTは大学で広く使われており,Edelは触図原稿を作成するのに日本国内で広く使用されているためである.事前アンケートの結果,すべての被験者はPPTの操作に慣れており,Edelの使用は初めてであった.被験者に,触図原稿を3つのシステム(PPT,Edel,本システム)で作成してもらい,アンケート調査を実施した.アンケート結果の統計的検定から,コンピュータ操作に長けた被験者でも,紙と鉛筆を使った本システムによる触図原稿作成の方が,有意に使いやすいという結果を得た. 研究期間全体を通じては,当初の研究計画の通り,触図用の手書き図形認識技術を開発し,その応用として図形原稿からの触図自動作成支援システムを開発した.GUIについては,編集可能なシステム開発には至らなかったが,開発したシステムのユーザビリティ評価の結果,手書きにより触図作成の有効性が確認できた. 本研究の社会的意義や重要性について述べる.全盲の視覚障害者が図などの視覚情報を取得するためには,触図の使用は不可欠である.本システムは,ユーザビリティ評価実験の結果,コンピュータ操作に不慣れなユーザでも使い易いと言える.即ち,視覚障害児・生徒が理数系科目を学習する際,触図の提供が容易になると考えられる.このことは,視覚障害児・生徒の学習や自律といった視点から社会的意義があり,重要である.
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