研究課題/領域番号 |
24501240
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研究機関 | 日本医療大学 |
研究代表者 |
森口 眞衣 日本医療大学, 保健医療学部, 准教授 (80528240)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | インド医学 / 医学史 / 疾病概念 / 精神療法 / 宗教実践 |
研究実績の概要 |
本年度において以下のような研究成果を得た。 (1)インド精神医学史における疾病概念の変遷:ギリシアとインドの古典医学書において「癲癇(てんかん)」に関する記載を比較し、疾病概念が宗教と医学それぞれの領域とどのような関係で位置づけられているかを考察した。ギリシア古典医学書では魔術論-科学論という対立基盤から、てんかんの病理的側面や治療構造などに関連した宗教的要素は非日常的な「医学に対立する」という位置づけで排除する方向性がみられる。一方インド古典医学書において宗教的要素は医学と対立あるいは阻害しない形で並立させる方向性がみられた。さらに現代の精神医学に関連する治療構造などで既存の医学体系に関連あるいは取り込む形で位置づけようとする方向性があり、また宗教的要素がむしろ医学的なものとして解釈される現象もおきていることを指摘した。 (2)宗教的実践と精神療法との関連:インド古典医学書および仏教経典における医療者の実践に関する記載をもとに、宗教的要素と医学的要素がどのように関連しているかを考察した。インド古典医学書は臨床的観察眼の鋭さを特徴とするが、その内容は律蔵など仏教経典における医療記事と共通する。仏教教団の僧医は医療者であると同時に宗教者でもあり、また当時のインド社会では宗教的要素・概念の多くが日常の中に広く受容されており、その並立性が宗教的要素を科学としての医学に対立させずに病理や治療の中で展開させる図式を作り出し、両者の親和性に影響を与えている可能性を指摘した。 (3)インド医学書における疾病の記載:インド医学の領域分類「八科」および医学書の構成枠「スターナ/アディヤーヤ/プラティシェーダ」は現代医学の疾患枠や医学領域の区分とは概念が大きく異なる。ただし症状や治療など臨床的な記載から現代医学との共通要素を多く抽出でき、それをもとに医学書の内容を分析する方法の有効性を指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度における現在までの進捗状況は以下の通りであり、本研究の目的に対し当初の計画を大幅に修正することなく次年度の研究に取り組むことが可能であると判断している。 (1)インド精神医学史における疾病概念の変遷:本年度で指摘した西洋の精神医学史研究の影響を視野に入れ、疾病概念の位置づけについて慎重な考察を重ねつつ検討・整理を進めている。 (2)宗教的実践と精神療法との関連:とくに近年の精神医療の分野における「瞑想」をはじめとした宗教的要素の位置づけに留意しつつ、医学的治療のなかで宗教的実践が取り込まれていく現象を総括する仮説を構築している。 (3)インド医学書における疾病の記載:症状関連のほか、看護や診断といった場面での医療者の姿勢に関する記載の抽出をおこない、新たな角度での考察に向けて準備した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の計画に基づく今後の推進策は以下のとおりである。 (1)インド医学の疾病概念について、精神医学を含めた全体的な医学領域を対象として病理および治療的側面に関する記載の分析調査結果をもとに、古典医学書『スシュルタサンヒター』の構成を踏まえながら概念変化の考察を整理する。 (2)インド~東南アジアで展開されてきた宗教実践のひとつ仏教瞑想が現代の精神科医療のなかに取り込まれてきた過程および背景について、これまでの調査結果を整理し、仮説の理論化を進める。 (3)これまでに得たネパール写本の調査結果を踏まえ、インド古典医学書の構成上の特徴およびテキスト資料を整理し、医学史研究における医学書の活用について考察をおこなう。 上記については本研究課題の最終年度において総括するとともに、これまでの研究によって得られた断片的な萌芽的成果から、今後新たな研究課題として発展的に展開させるための準備もあわせて進めていく。
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