本研究は、60年間以上にわたり現在に至るまで続けられている原爆被爆者の調査を始めとした、放射線影響調査に関する科学史的研究であり、これまでの放射線影響をめぐる調査研究は、どのような体制で行なわれてきたのか、それらは何のため、誰のために行われたのか、その結果はいかに活用されたのか、などについて解明することを目的として進められた。 米軍による原爆投下直後に始まった原爆調査以来の原爆被爆者調査の系譜に加えて、現在、福島県が実施している「県民健康調査」をはじめとした、現在進行中の福島の事態をめぐる調査研究のあり方についても、歴史的知見と結びつけつつ、考察を加えるように努めた。本年度は、これまで引き続き進めてきた、広島・長崎の原爆被爆者調査の歴史と福島の調査を結びつける研究成果を発表することができた。さらに、福島原発震災以後に行われている放射線関連のリスクコミュニケーション活動の意味について、チェルノブイリ原発事故以後のエートス・プロジェクトをめぐる問題群を参照しつつ、問題点を明らかにし、学会で発表することができた。 本研究を進めるにあたっては、昨年度までと同様に、市民科学研究室の低線量被曝研究会メンバーの研究協力を得て、月1回のペースで研究会を開催し、研究会での議論を重ねながら研究を進めることができた。また、今年度は、日本科学史学会の年会において放射線安全神話をめぐるシンポジウムが企画され、発表者として参加したが、このシンポジウムを契機に、放射線をめぐる科学史研究グループを組織し、MLを開設し、情報交換や意見交換をはかりつつ、8月に研究会を行ない、学会等でのシンポジウムの企画もいくつか実現した。それらは、本研究の成果の発表の場となったばかりでなく、今後の研究の進展に向けた研究交流として大いに意義のあるものとなった。
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