本研究は,特に関東地方の縄文時代人骨を調査の対象として,人骨に残された生活痕跡の多角的な分析と検討を行い,遺跡単位あるいは地域単位の小個体群に分けた生活史・生活誌の多様性を明らかにしようとするものである。 研究初年度である平成24年度には,関東地方の縄文時代遺跡である中妻貝塚遺跡・大膳野南遺跡出土人骨について歯の形態的特徴,咬耗状態,エナメル質減形成に関する精査を行った。また分析の途中経過を学会・研究会にて発表した。研究期間の2年目に当たる平成25年度は引き続き既発掘の各地域の縄文時代人骨の調査を進めるとともに,平成25年11月1日~4日に行われた第67回日本人類学会大会において研究成果を発表した。関東地方以外の縄文時代人骨に関しても,出土例が乏しい日本海側の資料として青森県五月女萢遺跡および青森県田小屋野貝塚出土の人骨に関して形態的検討を行った結果を公表した。 研究最終年度である平成26年度は,平成24年度に調査した大膳野南遺跡人骨に関する発掘調査報告書が刊行された。他地域の縄文時代人骨に関しては,青森県尻労安部洞窟出土の資料を用いた論文が公表され,また他時代の人骨に対して本課題の成果を利用した,古代の乳歯に関する報告もなされた。さらに宮城県気仙沼市台の下貝塚から出土した人骨の鑑定を受託した。これは資料の保存状態の関係で前処理に時間を要し,研究期間内での鑑定はできなかったが,今後行われる報告に本研究の成果をフィードバックできるものである。
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